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ね？と笑う恵里サン。
怒鳴りつけて、お前の兄のせいだと非難したっていいだろうに、彼女にはそんなことをする気配もない。
この人は本当に優しいのだ、と。どうしてこんなにも、優しい人達が周りにいるんだろう、と。なんだか堪らなくなって、じわじわ視界が歪むのが分かる。
気付かれないよう視線を逸らせば、｢泣かなくていいじゃない｣と微笑まれた。いとも簡単に気付かれてしまったようだ。
優しい声音に、姉が出来たような錯覚に陥る。そういえばこの人は蓮と同い年だから…私より三つ年上だっけ。
「ねぇ、怒らないで聞いてね」
『…ハイ、』
「やっぱり、貴方は蓮にとって、凄く大きな存在だと思う。蓮、貴方の話をしてる時、凄く幸せそうだったから」
『…』
「私と蓮はきっと、恋人なんて関係じゃなくて良かったの」
蓮と恵里サンは、どちらも幼い頃に両親を無くしたらしい。その境遇故か友人という存在も信じられず、心の内を話せるのはお互いだけだったそうだ。
年齢も同じで、唯一信じられる人間。お互いを恋人と称したのは、それ以上に親しい間柄を示す言葉を知らなかったから。彼らにとっては"友人"ですら、信用に値する名称ではなかったのだと。
そう、彼女は語るのだ。
「私達が欲しかったのは、一緒に居られる理由。でも、恋人ってきっと、そういうものじゃないんでしょう？」
『…でも、』
「蓮、貴方に｢頼む｣って言ってた。あんなこと言われたことないもの。貴方のこと、信頼してる証でしょ？恋人って本来、そうあるべきものだと思うの」
『それは、恵里サンを、』
「何よりね、私、ソレを聞いて何も思わなかった」
『…え？』
「嫉妬とか、しなかったの。この子になら蓮のこと、任せられるな、って。なんか…お姉ちゃんみたいな気持ちになっちゃって」
彼女の笑みはなんだか、イタズラが成功した子供みたいにも見えた。
一つの邪気もないその様に、目を逸らしたくなってしまう。
『…どうして、そんなに優しいんですか』
「え？」
『怒られたって当然のことをしてるのに、誰も私のことを責めてくれない。周りの人、皆、馬鹿みたいに優しくて、』
「そんなの分かりきってるでしょ？」
『…』
「貴方が優しいんだもの」
『…あ、』
頭が撫でられて、久方ぶりに感じた感覚に、堪えていた涙が溢れ出す。
もう誤魔化すなんて無理なのは分かっていたけれど、せめてもの抵抗として、私は視線を地面へ向けた。
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年4月26日 18時
