鶴は幸せを運ぶのか Ⅹ (ページ38)

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ソレではまるで、ダークウイングが、恵里サンを。

一瞬、彼女の顔を盗み見れば、ソレは恐怖に染まっていた。
恐怖一色だったのだ。
普通、モンスターに襲われれば、恐怖と共に困惑が芽生える。モンスターという存在を、普通の人間は知らないからだ。初めてのものに対して人間は、困惑と恐怖の二つの感情を覚えるハズなのに。

「きゃあッ！」
『恵里サン！』

恵里サン目掛けて、ダークウイングが襲い掛かる。殴ってでも止めなければと、拳を握りしめた時。

「よせッ！」

聞こえた声は、ダークウイングと契約する人間のモノ。ダークウイングを従えることが出来る唯一の人間のモノ。

『蓮…』
「…A。…恵里を、頼む」
『分かってる』

未だに響くその音は、バズスティンガー･ブルームのモノ。ソレを倒さなければ、恵里サンが真に無事と言える状況はやってこない。

「変身！」

故に蓮は、私達の目の前で、装甲を纏ってミラーワールドへと消えていった。

「蓮…」

恵里サンの瞳に浮かぶのは、恐怖か、困惑か、その二択だと思っていた。仮面ライダーという存在を、彼女は初めて見るハズだから。
だのに、その瞳に浮かぶのはどちらでもない。しかし安堵とも喜びとも取れず…私には、彼女の感情を読み取ることは叶わなかった。

「…貴方が…Aさん？」
『ッあ…すいません、急に…知らないヤツに名前呼ばれたりして、怖かった…ですよね、』
「ふふ…大丈夫。貴方のこと、蓮から聞いてたから」
『蓮が…？』

凭れて構いませんと言えば、彼女はおずおずと体重を乗せてくる。やはり体力が戻っていないこともあり、現在の状況は辛い以外の何物でもないないのだろう。

「昨日、色んな話を聞かせてくれたの。私が眠ってる間、お見舞いに来てくれた人の話とか…。…それで、貴方の話が、一番多かったから、」
『…大した仲じゃあ、ありませんよ』
「ううん」
『…え、』
「貴方はきっと、蓮にとって、私よりももっと大きな存在だと思う。…多分、私が居なくても＿＿」
『違うッ！』
「ッ、」
『……あ、…すいません、大きな声、出して』

病人相手に声を張ってしまったのは申し訳ないと思う。けれど、彼女が発した台詞は、簡単に頷けるものではなかったのだ。
"私が居なくても"なんだというのだろう。恵里サンが居なくなったら、蓮の戦う意味は失われる。今までの戦いが無駄なモノになる。
ソレはきっと、死よりも辛い結末を招くと思ったのだ。