鶴は幸せを運ぶのか Ⅹ (ページ36)

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翌朝。

『叔母サン、こっちで良いですか？』
「そうそうありがとう。やっぱAちゃん頼りになるわ。他は誰も居ないんだもの」

真司はライダーバトルを止めると言って朝から出掛け、優衣も恵里サンの見舞いに出掛け。
故に、もうすぐ開店時刻でありながら、花鶏には私と叔母サンの二人しかいない。

しかし久しぶりに人手があるからか、叔母サンは上機嫌だった。ソレに安心して、開店準備の後看板をOPENにする。
暫くすれば、チラホラとお客さんが見えてきた。

『いらっしゃいませ』
「あ、鶴さん！」
『お久しぶりです』
「何してたの？」
『ンー…本業に手一杯で』

顔を覚えてくれている常連さん(主に女性)も中には居る。
矢張りウェイターも楽しいモノだな、なんて思いながら、久しぶりの手伝いを楽しんでいると。

「Aちゃんアンタ、ケータイ鳴ってるけど」
『エッ、』

叔母サンの声に振り向いて、耳を澄ませる。
すると確かに私のケータイの着信音が聞こえたので、一言断りを入れ、私はソレを耳に当てた。

『もしもし』
「お姉ちゃんッ！」
『優衣？どうしたの、』
「恵里サンが居なくなったの！」
『…は？』
「まだ体力も戻ってないのに…ソレに、恵里さんの意識が戻ったのは偶然が重なっただけで…いつ元の状態に戻っても、おかしくないって、」
『じゃあ…恵里サンはまだ、』
「…またいつ眠ってしまうか分からないって…！」
『！』

優衣から告げられた言葉。
恵里サンは治ったワケじゃなかった。ほんの一時、仮初の自由を与えられただけだった。
蓮が戦いを続けると言ったのは、ソレを知っていたからだろう。ライダーバトルを降りられないのは勿論だが、それ以上に、彼の戦う理由は無くなっていなかったから。

「Aちゃん」
『…！叔母、サン…』

自らの息が浅くなっているのに気付いた時、後ろからかけられた声。

「何、行くの」
『…ごめんなさい、』
「いいわよ。他の子達と比べたら良くやってくれてるわ」
『私、』
「行ってきなさい。どーせこれから新しい子雇うから」

ポンと背中を叩いて、叔母サンは店へ戻って行った。
彼女の感情は最早諦めとか呆れなのかもしれない。しかし触れた掌は、寧ろ安心を与えるような、文字通り背中を押すようなモノだったのだ。

『優衣』
「お姉ちゃん…？」
『今から行く！真司と蓮にも連絡しておいて』
「分かった！」

編集長に叔母サン…周囲の人間には感謝してもしきれない。
そんなことを考えながら、自らの愛車に跨った。