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「編集長ぉぉぉぉぉぉおッッッ！」
時間帯に見合わない叫び声と共に、真司が仕事場のドアを開く。
その先に見えるデスクには、暇そうに爪を見詰める編集長が座っていた。彼は視線だけを上にあげて、｢来たか、｣と抑揚ない声で告げる。
「編集長、すいません、勝手に休んで、クビだけは、あぁぁのクビだけは！」
「…A、お前どうした」
『あー…偶然、一緒に居て…話、聞いて』
「ほーん。…マァ、お前をクビにする気はないんだけど」
『…ぁざす、』
真司の言葉に否定も肯定も告げず、私と何度か言葉のラリーを交わし。
それからまた少しの沈黙を経て、編集長は口を開く。
「お前らさぁ、最近何やってんだ」
「！」
「真司、お前は馬鹿だけど、タダサボるヤツじゃないってのは分かってるワケよ俺だって。Aも最近ヤケに休むよなぁ。連絡するし、最低限仕事はするから問題無ぇ…けどお前、休めっつっても休まないようなヤツだったじゃねぇか」
その理由を言え、と。
落ち着いた声音で彼は言う。
「言えよ、ホラ。何やってんだ」
「……それは、その」
『…』
「…言えねってか、」
下手に誤魔化しても余計にボロが出そうだった。かと言って、正直に全て話すワケにも行かない。
出来るのはただ、黙り込んで床を見詰めることばかり。
「しょー…がねぇなぁ」
椅子に深く腰かけて、その背もたれに体重をかけながら、彼は言った。
「もう少し待ってやるから、出来ることはなるべくやっとけよ」
「……エッ、」
「ただし給料は大幅ダウンだ。島田達に示しがつかねぇからな？」
編集長は笑って、茶目っ気たっぷりにウインクをして言った。
黙っててやるよ、と、いう意味だろう。私達は口を割らなかったのに、何かを隠しているのは分かりきっていたのに…彼は信じて、"待ってやる"とまで述べたのだ。
「あー悪ぃけど…A、経理だけは頼むわ。やれる人間居ねーんだよ…勿論、その分の給料は持ってって構わねーからさ」
『編集長…』
「真司の給料減らすの頼むわ。後、記者の方が出来ねーんなら、その分自分のも動かしといてくれ」
『…ッ…！分かりました…！』
「編集長…！ありがとうございます！この恩は一生忘れませんから！一生ついて行かせてください！ね！ね！」
「離せよ真司ィ！」
感極まって編集長の手を握る真司と、鬱陶しそうに、しかし楽しげに握り返す編集長。
この人の下で働けて良かったと、改めて思った夜であった。
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年4月26日 18時
