鶴は幸せを運ぶのか Ⅹ (ページ25)

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『捕まって』

一言告げて、ハンドルを強く握りしめ、アクセルを思いっきり踏む。
辺りで車同士ががぶつかり始めたからだ。パトカーは緊急事態のため追いかけてくるマスコミを止めようとし、マスコミは勿論護送車に張り付こうとする。その攻防が事故を起こすなんて結末は想像に容易い。
そのゴタゴタに巻き込まれず抜け出せるよう、私は荒々しい運転を余儀なくされたのである。

何度もハンドルを切り返して車の群れを抜ければ、残る車は四台だった。
護送車と、その先導をするパトカー、そして私達の車と令子サンの車である。令子サンの横にはめぐみも座っていて、浅倉の取材へは二人で出向いているらしかった。

暫く走っていれば、護送車が先導車を追い抜こうとする。急に操作を取り戻したのは、きっと浅倉が運転席へ収まったからだ。
そして護送車が先導車を完全に追い抜いた時、ゴムとアスファルトが擦れるけたたましい音を鳴らして、殆ど同時に、二つの車は速度をゼロにした。ぶつかりそうになって、ブレーキを全力で踏み付ける。

護送車の運転席から現れたのは、案の定浅倉だった。

「動くな浅倉ァッ！」

対して、パトカーからも人影が現れる。浅倉に拳銃を突きつけるその姿には見覚えがあった。確か、実加ちゃんと出会ったあのフェリーで、事件の捜査をしていた刑事サンだ。

拳銃を突きつけられて尚、浅倉は動かない。獲物を見定める蛇の目で、刑事サンを睨みつけている。
ソレに気圧されたのか、刑事サンが構えた拳銃の狙いは、ゆっくりと浅倉の急所を外れていった。

「もう終わりか。もっと楽しませろよ」

興醒めだとばかりにその言葉は発せられ、次の瞬間、浅倉の手によって刑事サンの体は倒れ込んだ。糸の切れた人形のように、パトカーのボンネットへ体重の全てを預けている。

『浅倉…』

車を出れば、浅倉はパトカーの中からデッキを奪い返していた。彼の護送はかなり慎重だったようで、私物は分けて運ばれていたらしい。
そんな警察側の対処も軽々すり抜けて、浅倉は再び脱獄を果たしたワケだ。

「どうした、A。来るか？」

視線で護送車を指して、浅倉は言う。
一緒に逃げないか、とでも言いたいのだろう。しかし何もしていないのに、巻き込まれて逃避行なんざ真っ平御免である。
黙っていれば浅倉は、だろうな、と零してから、高笑いをして護送車へと戻って行った。