鶴は幸せを運ぶのか Ⅹ (ページ23)

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「ホントに来るのかなぁ、蓮」
「トニカク、探すしかないって」

珍しくもバイクではなく車で、私達は吉祥寺警察署…浅倉の護送の舞台へとやってきていた。
きっと周囲のマスコミに紛れて護送車を追うことになるから、バイクより車の方が安全と考えたのだ。万が一接触したり危ない道を通らざるを得なくなったりしたら、バイクでは危険が大き過ぎる。一人ならまだしも、後ろに優衣が乗っている状態でそんなことはしたくない。

「……蓮？」
『エッ…優衣、ホント？』
「今、蓮が、」

ふと、背後を振り向いた優衣が言った。
幾重にも連なるマスコミ達の車…その影に、蓮の姿が見えたのだと言う。

本当ならば、ソレに越したことはない。
この追いかけっこも終わりを告げて…彼が無意味に傷付くことも無くなるのだから。

『優衣、』

期待を胸に、駆け出した優衣を追いかけて足を踏み出す。

「蓮？…蓮ッ？」

人と車の影に紛れて、一度はその姿を見失った。そして再び、優衣の背中をこの目に捉えた瞬間。

「きゃあッ、」

優衣が小さな悲鳴を上げて、車道へと転ぶ姿か見えたのだ。
反射的に駆け寄ろうとした時、視線の右端に、鉄の塊が迫ってくるのが見えた。次に何が起こるかなんて想像に容易くて、ソレを避けるため、私は必死で優衣の元へ手を伸ばす。

「ぃやぁぁあッ！」
『優衣ッ！』

間一髪。

「…おねえ、ちゃん、」

私の手は彼女の肩に届き、車の通り道から引っ張り出すことが叶った。
何事だと集まってくる人間の隙間から、真司の姿が見えてくる。

「優衣ちゃん！大丈夫ッ…？」
『どうしたの、優衣、』
「誰かに…押されて…」
『……は？』

その言葉に、頭から血が引くのが分かった。
恐怖と怒り故だ。いや、初めに浮かんだ恐怖が、怒りに塗り潰されるという表現が正しいかもしれない。

告げられた言葉は本当なんだろう。
浮かんだ涙からその恐怖はありありと伝わってきた。何より優衣は、こんな状況で嘘をつくような人間ではない。

しかし辺りを見渡しても、犯人らしい影は見当たらなかった。あるのは、浅倉の護送に集中している人間のモノと、優衣を心配して近寄ってきている人間のモノだけである。
震える優衣の肩を抱きながら、気持ちを落ち着かせようと、ひとつ、深い息をついた。