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『……兄さん、』
そこに居たのは兄だった。
ほんの二日前、生まれて初めて拒絶を示し、酷い別れ方をした相手。予想外の出来事が続いて薄れていたけれど、不安の根底となっている存在。
思考が止まって、言葉が出てこない。
「また催促か…。生憎相手が見つからなくてな！」
何もせずに固まっていれば、蓮が、叫ぶような声音でそう告げた。
「…いや、お前たちライダーに死に急いでもらう必要は無くなった。暫くの間だけだが」
「何…？」
「それまでお前も無理に戦うことは＿＿」
「巫山戯るなッ！」
『蓮ッ！』
立ち上がって、兄へ詰め寄ろうとする蓮。
彼の腕を掴んだのは、その行動を止めるためと、今にも倒れそうなその体を支えるためだ。
「俺はお前のために戦っているんじゃない」
「望みを叶える為に、お前たちに戦ってもらわなければならない相手が居る」
「だとしたらソレはお前だ。13人目というのはお前なんだろう？」
「ソレは最後のライダーだけが知ることだ」
「今戦え。俺と」
「まだ早過ぎる。お前に勝ち目は無い」
「聞こえなかったか？」
13人目の、最後のライダー、オーディン。
その強さはたった一度見ただけで嫌という程思い知らされた。万全の状態のライダーが、四人掛りでも下せなかった相手。
瀕死の彼に勝ち目は無い。そんなことは、私も兄さんも、蓮自身も分かりきっていた。
「戦えッ！」
「…いいだろう」
兄さんの体が、蜃気楼みたいに掻き消える。
ソレは、臨戦態勢をとった表れであった。応じるかのように、蓮が進み出す。
『…蓮、』
「黙れ」
『そんなことしたら、本当にッ！』
「黙れッ！」
殆どの怪我が治り、ダメージはありつつも、体はある程度いつもの力を取り戻した蓮。ソレに対し、送り込んだだけ力が奪われ、立つのも覚束なくなってきた私。
力一杯突き飛ばされて、私の体はいとも簡単に地面へと投げ出された。蓮を止めることは叶わず、急いで追いかけても追い付かず、その背中はどんどん小さくなっていく。
『蓮…』
己の無力さを思い知らされ、ギリと奥歯を噛み締めた時。
「変身！」
彼が消えた先から、微かに。
戦いの始まりを告げる言葉が聞こえた。
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年4月26日 18時
