鶴は幸せを運ぶのか Ⅹ (ページ1)

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呪詛ページ1

身寄りの無い子供はどうなるか。
両親を亡くした、まだ一人で生きるに幼すぎる子供は何処へ行くか。

第一に選択肢に上がるのは、親戚筋にでも引き取られることだろう。そうでなければ知り合いの元へ、それも無理ならば里親という制度も存在する。引き取りが不可能ならば、最終的な行き場は施設だ。

しかし幸いにも、彼らにはそれぞれ、近しい親戚に引き取り手が見つかった。
彼ら…神崎の姓を持つ三人の少年少女は、新たに暖かな家庭を与えられることとなったのである。

傍から見れば、喜ばしいことに違いない。だが彼らにとってソレは、必ずしも喜ばしいことではなかった。
彼らの行く末は、彼らが知らぬ間に発案され、決定されたことだったからだ。

三兄妹の未来はバラバラに引き裂かれた。
次女は、父の妹…彼女にとっての叔母の元へ引き取られた。神崎邸から少し離れた場所で、喫茶店を営む女だった。
長女は、母の兄…彼女にとっての叔父の元へ引き取られた。県を二つ跨いだ所に住む、妻に先立たれたばかりの男だった。
長男は、今は亡き血の繋がった母の、弟の元へ引き取られた。海を挟んだ国･アメリカに家を構える男だった。

一人は元とさして変わらない土地に。
一人は別の県に。
一人は別の国に。

その兄妹は彼らが知り得ぬ間に、遠く引き裂かれることが決まっていたのだ。

初めにソレを知ったのは次女だった。
しかし彼女は、幼いあまり自らの身に何が起こるかを理解できない。

次に知ったのは長男だった。
彼は烈火の如く怒り、妹達と離れまいとした。兄として、必ずや守ると決めていたからだった。

引き裂かれるその日まで、長女はソレを知らなかった。
彼女はその間ずっと、白い病室で眠っていたから。

彼らが引き裂かれるその日。兄が海を挟んだ土地へ連れていかれる日。
次女と彼女を引き取る叔母とを前にして、長男は引き摺られるように車に乗った。兄は妹の名を叫び続け、妹は不安げに兄を呼んでいた、と。その様を目の当たりにした叔母は今も覚えている。

「優衣は俺が居ないとダメなんだ！」

裂帛の叫び声は、兄が如何に必死であるかを裏付けていた。
只事では無い。
ただ、妹と離れたくないがために叫んでいるのでは無い。

「俺が居ないと優衣はッ、20回目の誕生日で死んじゃうんだッ！」

ソレはまるで呪詛のような。

妹達は知らない。
しかし12年の歳月は、確かに呪詛を纏って過ぎていった。

12年、虚構の幸せを享受していた。