鶴は幸せを運ぶのか Ⅷ (ページ47)

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「今、いくら持ってる」
「ハァ？何でそんなこと聞くんだよ」

我々がやって来たのは北岡サンの自宅兼事務所。ココと海とを往復するのも流石に疲れてきた。

あの後、私の小さな安堵は見事に打ち砕かれることとなった。
令子サンはめぐみサンの話を信じ、仕事へと移したのだ。どうやら火傷の跡を見せられたのが決め手だったらしい。いや、北岡サンを悪者にするため、信じたフリをしている…というのも有り得ない話ではない。
彼女の仕事はジャーナリスト。要するに、北岡サンの婚約不履行を告発する記事を書こうと動いたのである。どうやら思っていた何倍も、令子サンは北岡サンを嫌っていたらしい。その行動の速さは目を見張るもので、ここぞとばかりに仕返しするつもりらしかった。
ちなみにコレを知ったのは、｢ちょっとやることがあるから｣と彼女が姿を消した後、編集長からかかってきた電話故である。｢令子がおっかねぇんだけど｣と半泣きで言う彼は、令子サンの記事に苦言を呈した際、バキバキの目で｢義憤に駆られてるんです｣と告げられたそうだ。怖すぎて｢そうか｣としか返せなかったらしい。
｢真司は頼りねぇし令子はおっかねぇし、何で今日に限ってAは休みなんだよォ。新しく社員雇おうかな…｣なんてボヤく編集長はちょっと可哀想だった。いや島田サンはどうした島田サンは。

そして蓮。コイツは私と同じような反応をしていたから、こちら側に立ってくれると思っていた。なんなら真司を止めてくれるかもと期待すら寄せていたのだ。
全くの間違いである。彼は真司を止めるどころか話を合わせ、｢結婚するんなら祝わなくちゃならんだろ｣と北岡サン宅までやって来たのだ。

「おめでとう」
「おめでとう、北岡。少ないが取っておけ」

中に入れば、ソファに腰掛けている北岡サン。
祝いの言葉を述べた蓮は彼に一つ、投げ捨てるようにのし袋を手渡した。表に書いてある"壽"の文字と、"秋山蓮"の名前。御祝儀である。
ちなみに自分で用意したかのように言っているが、入っているのは真司の金だ。先程蓮がカツアゲ同然に真司から奪ったモノである。真司ははジェスチャーで抗議の意を示しているが、蓮が聞き入れる様子は微塵も無い。