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「何だって俺が付き合わなくちゃならないんだ」
「いいだろ、少しくらい。お前の意見も聞きたいんだよ。めぐみさんと北岡と、どっちの意見が正しいのかをさ」
二度目に足を向けた、めぐみサンの屋台がある海水浴場。今度は真司と私に加え、蓮と令子サンも一緒である。
数時間前に比べて一層太陽も昇り、容赦なく日差しが照りつけるアスファルト。夏真っ盛りの今そうそう耐えられるものではなく、令子サンはバッグを、私は脱いだジャケットを頭上に日をよけ、男共に至っては上半身裸だった。
何故蓮と令子サンまで引っ張ってきたか。それは勿論真司のおかげ(せい)である。
めぐみサンと話した後、真司は真っ先に令子サンへ連絡した。案の定彼女は、北岡サンの悪事を暴こうと食い付いたのである。
そして先程、真司と私と令子サンとは北岡サンの家に乗り込み、｢貴女は女の敵よ！｣だの｢あんな純粋な女の人騙しやがって！｣だのと総攻撃を食らわせたワケだ。北岡サンの婚約不履行を信じきれていない私からすると、ちょっと可哀想な気すらした。
そして現在、これまた真司が連絡を入れた蓮と共に、我々は再びめぐみサンの元へやってきている。
「そうですか…秀一は、まだとぼけてるんですか」
「ねぇ…本当のことを話してくれる？悪いようにはしないから」
「私一度や二度じゃないんです。秀一にプロポーズされたの」
めぐみサンの隣で、保健室の先生のような声音で語りかける令子サン。促されるように始まった北岡サンとの思い出話に、数メートル離れた場所にて、私達はそっと耳を傾けた。……
雪も積もる冬。
ラーメンの屋台でとある恋人達が、一つの皿を向かい合わせに座っていた。
「愛しているよ、めぐみ」
「秀一…」
「俺が一生君を暖めてやるよ。俺のこの手で」
女の細く小さい両手が、男の大きいソレに包まれる。じわりと熱が与えられる感覚に、女はそっと、包まれた両手へ頬を寄せた。
「今の俺には指輪も買ってやれないけど…コレで我慢してくれるかな」
男が箸で持ち上げ、グチュリと音を立てて薬指にハマった指輪。ソレはラーメンにトッピングされた煮卵だ。
「わぁ、素敵！ダイアモンドのように輝いているわ！」
「嗚呼、世界一大きなダイアだ。しかも栄養がある」
きっと彼らにとって、100カラットのダイアであろうと、その指輪には敵わない。
「でも秀一？」
「何だい？」
「熱いわ」
「ふふ、」
星が瞬く冬の夜空に、暖かな恋人達の笑い声が、小さく響いていた。……
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年3月26日 15時
