340 ページ35
『居た…』
「…お前…Aか？」
「エッ」
「Aちゃん！？」
『そうそうAです鶴見A。時間無いから手短に話すけど一言一句聞き逃すなよ聞き逃す事に一発殴る』
「Aちゃん大丈夫？」
『大丈夫ではない』
それから文字通り、息付く間もなく捲し立てた。
蔵井サンのマンションで出会った竹内真理の存在。首にかかった令子サンのネックレス。竹内真理がOREジャーナルに恨みを持っている理由。竹内真理の部屋番号。
『多分、次のターゲットは私か真司だと思う。だから、もし接触するなら気を付けて』
「わ、分かった…」
「お前…全部一人で調べたのか？」
『大した量じゃないでしょ。編集長に聞いたら大体のことは出てきたし…後は運だよ』
「良くもマァここまで…」
『…格好つけるなら…。…ジャーナリストの血が騒いだと言いますか』
小っ恥ずかしいことを言っている自覚はある。だが再三言うが、もう私にマトモな思考能力は残っていないのであった。
本来なら、バイクを走らせるなんて絶対に辞めた方が良い状態だ。
「Aちゃん、カレー食べる？こっち口つけてないし…美味いし」
『アー…気持ちは有難いんだけど、ちょっと今何も入りそうに無いんだよ。眠過ぎて吐き気すらする…正直カレーの匂いもキツいというか…』
「大丈夫か、お前」
『平気…食事中にごめん』
バトンは渡した。
役目は果たした。
後に残る使命は、事故らずに家に帰るくらいだろうか。
『じゃ、家帰って寝るから』
起きた時には解決してることを願ってるよ。
自嘲を込めてそう言って、フラフラのまんまバイクに跨る。運転はもう意地だった。
本来は絶対にやっては行けない行為なので、頼むから真似はしないで欲しい。
家に着き、胃の中に買い溜めておいた栄養ゼリーを流し込む。
空きっ腹は体に悪い、しかし吐き気故に匂いの強いものや固形物は食べられそうにない。横着の末の昼食である。
本当は風呂に入りたかった。メイクも黒染めも落としたかった。
しかし今風呂場に足を踏み入れたら、すっ転んで頭を打つ未来しか見えなかったのだ。最悪死ぬ可能性だってあるので、これ以上無理はしないでおきたかったのである。
自室に飛び込んで、慣れ親しんだベッドに身を投げる。
マットレスにズブズブ沈んでいく感覚がして、私は眠気への抵抗をやめた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年3月26日 15時
