鶴は幸せを運ぶのか Ⅷ (ページ18)

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「コイツはなァ、ここんとこずっと令子さんの後を付け回してたんだよ」

由良サンの周りをぐるぐる歩きながら、真司は告発のような口調で捲し立てる。｢危ないことしやがって！｣と言い放つ彼は、まるで説教でもしているようだった。

数秒、頭にいくつかの疑問符が浮かぶ。しかし脳内を整理するよう努めれば、ソレは感嘆符へと置き換わった。
由良サンや北岡サンも同様のようで、一拍の後、彼らの口からは笑いが零れていた。心底可笑しい、といった具合である。

「なんだよ！」
「ゴローちゃんはストーカーじゃない。俺に頼まれて花束を渡しに行っただけだ」
「エッ！？」

北岡サンに言われた言葉に、真司は勢いよくこちらを振り返る。
周囲に立つ三つの選択肢の中で、最も真実を得られる確率が高いと判断したのだろう。無意識下で信頼出来る人間を選び、咄嗟に反応を求めたらしい。

ならば答え合わせをしてやろうと、人差し指で背後の一点を指してやった。
ソコにあるのは、先程私がシフォンケーキと紅茶に舌鼓を打っていたテーブル。食べ終わった食器たちの隣には、先程由良サンに渡された薔薇の花束がある。

事の顛末はこうだ。
真司は今日、令子サンと共に帰る私とをつけていた。食事にも寄ったから、最初からずっとつけていたワケでは無いのだろう。どうせ私達を偶然見かけ、昼間｢令子サンを守る｣と啖呵をきったことを思い出し、いても立っても居られなくなったのだ。彼の根底には、"思い立ったら即行動"が染みついているのである。マ、ソレは"よく言えば"であり、悪く言うのなら考え無しなのだ。
一方由良サンは、私に花束を渡すという北岡サンから受けた任務を遂行しようとしていた。人目…特に蓮なんかに見られたら面倒だとでも思ったのか、帰り道にでもサッと渡そうとしていたらしい。だが偶然にも今日、私は令子サンと共に帰宅したので、渡すタイミングを失ってしまった。一度帰るよりも一人になるのを待った方が効率が良いと考え、それまで後をつけていた…と、そういうワケだ。