鶴は幸せを運ぶのか Ⅷ (ページ17)

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『ン…！美味しい…』
「良かったです」
『態々ごめ…ありがとうございます。あと…花も』
「いえ…お礼なら、先生に」

現在私が居る場所は、スッカリ立ち入るのにも慣れた北岡サンの自宅兼事務所だ。
先程、思わず｢何事？｣と零してしまうような謎の状況に相対した私は、その後由良サンより事の顛末を聞き、北岡サン宅までやってきたのであった。

そして今、私は由良サンに注いでもらった紅茶を片手に、抹茶風味のシフォンケーキを頬張っている。お気遣い無くと言ったものの、北岡サンが"貰い物で食べきらないから"と言ったので頂くことにしたのだ。流石、罪悪感を取り払うのが上手いことである。
マァ、待ち時間が暇だったのは事実なので、お言葉には甘えておくことにした。

では何を待っているかと言えば、それは真司の目覚め。意識を失っていた彼は運ばれて尚目覚める様子が無かったので、せめて起きるまでは居座らせて貰おうと思ったのだ。同僚が迷惑をかけた罪悪感と、純粋な心配があったからである。

そして、真司が何をやらかして、由良サンに迷惑を掛けたのかと言えば……。

「うぎゃぁぁぁぁああああッ！！！」

…と、真司が目覚めたようなので、その話は一旦置いておこう。

「何寝惚けてんだよ！ホラAちゃん、コイツ起きたけど？」

その声に振り向けば、不思議そうに辺りを見渡す真司と、呆れた顔でソレを見下ろす北岡サン。寝起き早々叫ぶとは、一体どんな夢を見ていたんだか。

『ご馳走様でした』

シフォンケーキの最後の欠片を口に運び、紅茶を飲み干して席を立つ。
未だ状況が理解出来ていないらしい真司に近付けば、彼は目を見開いて私の名前を呼んだ。迷子の最中、母親を見つけた幼子のようである。

「それより、どういうつもりよ。いきなりゴローちゃんに襲いかかってきたそうじゃない。何考えてんだよ」
「ソレはこっちのセリフだよ！Aちゃんこっち！危ないから離れてッ！」
『エ、ちょ、何』
「このストーカー野郎ッ！」
「はァッ？！」
「ストーカーだよ、ストーカー！」

北岡サンの言葉に、真司は直前の記憶を思い出したらしい。
目の前に立つ北岡サンに体当たりし、かと思えば私を自身の背後に隠し、今度は由良サンへと飛びかかる。必死というのは見て取れるが、キャンキャン喚くその様子は、相手がどちらも長身の持ち主ということもあり、何だか子犬のようであった。
何やら分からないが、彼の脳内にはとんでもない誤解が巻き起こっているようである。