鶴は幸せを運ぶのか Ⅷ (ページ15)

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『蔵井サン、でしたっけ？』
「エ？」
『お見合いの相手』

昼間にした約束の通り、令子サンと共にレストランへ寄り、夕食を済ませたその帰り。

「あー…そうねぇ、」
『どんな人だったんです？正直…スペックだけなら悪くなかったと思うんですけど』
「何、上手くいって欲しかったの？」
『そりゃ…出来ることなら、良い人と結ばれて欲しいと思いますよ。令子サンには』

スッカリ日が落ちた夜道は、数メートル毎に街灯はあるものの十二分に暗い。大通りから少し外れた道故に人通りも少なく、聞こえる音といえば時々通る電車くらい。
ストーカーに追われている可能性もあるクセ、よくもマァこんな道を一人で帰ろうと思ったモノだ。一緒に帰ることを言い出していなかったらと思うとゾッとする。

「なんか…思ってた感じと違ったのよね」
『…？何言われたんですか』
「"貴方みたいな女性が僕なんかに興味を持つハズがない"、とか。趣味とか聞いても…"そんなこと聞いてどうするんです"、なんて言われるし」
『はぁ…マァ、自分じゃ釣り合わない、なんて思うのは理解出来ますけどね』
「そうかしら」
『だって令子サン、美人でしょう。スペックも性格も良いし…相手も尻込みしますよ』
「…そう？…マ、私も軽い気持ちで行ったのは悪かったと思うけど」

令子サンのストーカーとやらは…本当に昨日の見合い相手なのだろうか。
確かに令子サンがフッた形にはなったけれど、話を聞く限り、本人もハナからフラれると考えていたようだ。となれば、予想通りフラれただけでストーカーに転じるとは思えない…。いや、どうやら相手は少々ひねくれた性格の持ち主らしいし、憧れや劣等感を拗らせた結果ストーカーに…なんて展開は有り得るか？

「良い男、居ないかなぁ…」
『…令子サン、もしかして結構本気だったりします…？』

マ、ストーカーの正体が誰であれ、令子サンを守ろうという気は変わらない。
誰かと歩いて帰るというのは学生時代を思い出して中々楽しいし、運動にもなる。普段バイクを使っている分ガソリン代の節約にもなるし…そして何より、ストーカーへの対策になるのだから良いずくめ。
ストーカーなんて許せないのは当たり前だが、暫くの間令子サンと歩いて帰れるというのは、正直ワクワクしてしまう。

「ここまでで良いわよ」
『えっ、』

なんて思っていれば、いつの間にやら令子サンの家の近くまでやってきていた。今私達が立っている曲がり角を右に行けば、もう彼女の家は見えてくる。