オモチャ。【市橋哲人】

オモチャ。48 ページ49

Aside

おばさんに連絡した後、おばさんは風の速さで駆け付けてきた。


泣きながらトビオに、無事で良かった、無事で良かったって抱き締めてた。

トビオは大袈裟だって宥めてたけど、泣くぐらいだもの。相当心配してたんだろうな。

普通の親って、そんな感じなんだよね。きっと。


『私の親は普通じゃないから、わかんないな。』


楽しげに話すトビオとハルちゃんとおばさんを見ながら、小声でそう言い残して病室から離れた。



次に向かう先はというと……






『やっほ。市橋。』


「……ん。」


市橋の病室。


この病院に向かう途中で気付いた。

あれ？ここ市橋も入院してるとこじゃ？って。

まぁ、ここらで言う病院はここしか無いから不思議じゃないけども。


でも、気をつけないとな。
もしトビオと市橋が鉢合わせなんてしたら、どうなるかなんて目に見えてる。

それだけは、避けなきゃ。


『今日の果物はみかんだよー。』


剥いてあげるね、と一言言って皮を剥こうとすると

「…いい。自分でできる。」

みかんを取られる。


ええ。大丈夫なの…？

心配になりつつ、見守っていると


ぐしゃっ。


案の定、みかんが潰れた。


「………」


これだから力加減がわからないやつは…


ため息をつきながら見ると、市橋の掌からみかんの果汁がぽたぽたとベッドに染み付いていっている。

あぁ溢れてる溢れてる…！


『あーもう！勿体無い。ほら手ぇ貸して！』

市橋の掌をぐいっと顔の前に持ってきて、口元に近付ける。

タオルを出したいところだけど、今はそれさえも惜しい。

舌を出して、それをペロッと舐めとる。


「なっ……」


顔を赤らめる市橋をよそに、たんたんと舌を滑らす。


『…ん、もー垂れてこないでしょ。』


市橋の掌から唇を離して、鞄の中を漁ってタオルを探す。


『ほい。タオル』


タオルを差し出すと、何か言いたげに口をパクパクする市橋。

『どしたの？』


「……い、や。何でもねぇ。」


自分の顔を隠すようにベッドに潜り込む市橋。


？

どうしたんだろう。
私はただ、市橋の掌を舐めて…





市橋の掌、を…？


舐め、た…！？



今さっきの自分の行動を思い出して、顔の熱がぼんっと上がる。



わ、わわたし…何てことを…


いくら勿体無いとは言え、それを舐めとるなんて…



私って、こんなに破廉恥な女だったっけ…！？


『さ、さっきの忘れて！いや忘れてください！』


さいならーと、そそくさに病院を出た

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