オモチャ。【市橋哲人】

オモチャ。41 ページ42

耳を澄ますと、何やら揉めてるらしい。


嫌がる女の子の声が聞こえる。


流石に正気に戻ったらしいトビオは、とりあえずシャツを着直して窓の外を開けた。


トビオの肩に顎を乗せて、私も外を覗く。



するとそこには。




『！！…市橋…っ』


車椅子に押された市橋の姿があった。



私の声が聞こえたのか、ゆっくりと此方を振り替える。


「……………お前……」


怒ってる。目を見なくても。


身震いするほどの視線を感じていると



「A、トビオ！！逃げろぉ！！」



伊佐美が私達に向かって叫んだ。


その叫びに、我に返り急いで玄関へ向かう。


けど…


「おいコルァッ！！開けろッ！！」


どうやら玄関からは駄目みたい。




『トビオ…どうしよう…』


弱気になる私をよそに、自分の靴を抱えて窓の近くに走っていくトビオ。


その後ろに、頭の上にクエスチョンマークを乗せながらついていく私。



トビオ、と声をかけると急に抱き上げられた。


え、な、なに？


「しっかり捕まってろよ。」


その一言で理解した。


ばんじーじゃんぷだ。


『お、落ち着こ！？せ、せめてヒモつけてぇええええええ』


私の意見などお構い無しに、窓の外へ飛ぶ。


着地成功。


若干ｸﾞｷｯと音がしたけど気にしない。


「やべぇよやべぇよ…！！ぜってー殺されるっ！」


死に物狂いで走るトビオを一目し、後ろをチラリと見る。


ギロリとした目付きの市橋が、こちらをじっと見つめていた____









暫く逃走すること30分程。


30分も逃げ回ってたなんて…

道理で口の中が血の味するわけだ。


それに、段々足取りがおかしくなってきた。


先々に走るトビオを見つめながら、一度立ち止まって肩で呼吸する。




こんなに走ったの、久しぶり。



「おま、大丈夫か？」


苦しそうにヒューヒュー言う私に気がついたたようで、心配そうに背中を擦ってくれるトビオ。


『だ、だいじょーぶ…。
トビオ、先逃げてて。私もすぐに追い付くから。』


「は！？お前置いてけるわけねーだろ！」



『だいじょーぶだって。私、ここらへんの逃走経路把握してるしさ。…さ、早く」


「……」


『行って。』


迷うトビオに念を押すと、直ぐ様立ち上がり此方を見ることなく走っていった。


一人歩道橋に取り残された私は、柵に背中を預けて目を閉じる。


すると、ふと頬に冷たい何かを当てられている感覚。


ゆっくり瞼を開けると、そこには



『いち、はし……』

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