炎ゆらゆら、気持ちふらふら。 (ページ14)

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十三夜目ページ14

〜荼毘〜
アイツを病院に送り届けてから、数日が経った。

部屋には一人きりで、煙草の臭いすらしない。

音もしなく、しん、としていた。

「渚チャン」

俺は虚空にアイツの名前を呼んだ。

無造作に放られた上着を手に取り、しばらく眺めた。

会いたい。

ただ、その気持ちだけが募っていった。

あの場で、初めて俺を求めた。

それだけで、俺の何かが満たされた。

その瞬間、ガチャ、と玄関扉の音がした。

『ただいま、荼毘』

「…おい、何で俺を呼ばねェんだ」

足には包帯が巻かれ、松葉杖を片手に持った渚がいた。

『だって携帯持ってないでしょ』

「家にかけてきたら良かっただろ、」

『…心配、かけちゃった？』

「…たりめェだろ」

俺は渚を抱き抱え、ベッドに優しく降ろした。

『荼毘、私煙草吸えなくなっちゃった』

『喉、少しやられちゃったみたいで』

アイツは力なく笑った。

「…健康にいいだろ」

『まぁ、そうなんだけどさ』

アイツの服の裾から覗く腕が、目に入った。

「お前それ」

『あ…火傷？』

渚は袖を捲り、左腕を露にした。

腕から二の腕付近まで、広い範囲の火傷が渚の腕を覆っていた。

「…」

俺は何も言えず、立ち尽くしていた。

『荼毘とお揃いだ…なんて言ったら、失礼かな』

渚はそう言って自分自身の火傷を撫でた。

「嫌じゃねェのかよ」

『別に。気にしない』

渚は立ち上がって、冷蔵庫を漁ってジュースを飲んだ。

『荼毘、ちょっと家事手伝ってよ』

アイツは俺を見て優しく微笑んでいた。

何故かはわからない。

だが、その言葉に俺は安心した気でもあった。

「…へいへい」

また、いつもの日常が戻ってくる。