佰拾玖話 ページ23
私はしばらく厄災と見つめあっていた。
モニターで私達を監視している彼らの姿がガラス越しに見えた。
スッパさんは私から目を離さず、ずっと心配そうに見ていた。
一方で厄災は、先程しゃがんだ位置から一歩も動かず、私を穴が空きそうなくらい見ていた。
『…アストルさん』
私がそう彼の名を呼んだ。
その時、厄災は大きく反応した。
大きく後退り、その様子はまるで厄災とは思えないほど弱々しいものであった。
『そこに、いるんですよね?』
厄災は頭を抱えるようにして苦しそうに呻き始めた。
「厄災の心拍数が上昇してる!!続けて、グレイ!!!」
プルアさんがそう叫んだ。
私は頷いて、厄災の方に向かって歩いた。
『貴方は…厄災ガノンじゃない。アストルさんは…その中にいるんですよね?』
きっと、頭が割れるような思いをしているのだろう。
今の彼には自我がない。
私がやっている行為は本来の記憶を呼び覚ます行為。
本来なかったはずの記憶が内から覚まされることは、私が想像しえないような痛みなのだろう。
厄災は自身を守るようにして蹲った。
その様子は、なんだか何かに怯えているようで。
確かに、私はアストルに酷いことをされた。
精神的にも、肉体的にも傷つけられた。
私はその事実に怒っている。
だが、恨んでいるわけじゃない。
だから、私は彼を呼び覚ます事に誠心誠意を持つ。
『戻ってきてください。アストル_____』
私は厄災を包み込むように抱きしめた。
怨霊の部分である赤黒いモヤが空に消えていく。
全てが消えると、私が抱きしめていたのは厄災ではなくなった。
『…ほらね、いたでしょう』
アストルが、眠ってそこにいた。
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ねこ - いつも影から楽しく見させて頂いております<(_ _)>3章を続けていくのもとても気になります…が、個人的にyu→ruさんの恋情シリーズも見てみたいな〜、と思ったので、私は3を選ばせて頂きます。 (6月20日 16時) (レス) @page7 id: 491a8dd465 (このIDを非表示/違反報告)
ゆたんぽ(プロフ) - シリーズ3作目おめでとうございます✨私は3章がどんなふうに続いていくのか気になるので1です! (6月19日 6時) (レス) @page7 id: dbdf82a303 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:yu→ru | 作成日時:2023年6月19日 1時