ＯＮＬＹ［HS］ (ページ35)

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Aが泣いていた。
正確には涙は溢れていなかったけれど、あの顔は泣くのを必死に堪えている顔だ。
普段涙を見せないAが目にいっぱい涙を溜めていたのを見たメンバーは全員がびっくりしたと思う。

確かに最近のAはなんとなく思い詰めたような顔をしていた。
それでもメンバーといる時は普段と変わらず軽口を叩きあったり、冗談を言ったりして笑っていた。
だから、特に重大ではないと思っていたのだが、僕らが思っていたよりもAは嘘が上手だったらしい。

JN「Aに何かあった？何か知ってる人は？」

誰も何も答えない。
ジミンはどうしたの？と声をかけていたが、Aのパフォーマンスは減点するところは一つもなくて、強いて言えばいつもあるプラスアルファの加点がなかったくらい。

YG「そういえば最近、帰ってくるの遅くなかったか？」

NM「たしかに言われてみれば、宿舎であんまり見かけなかったかも」

TH「僕、様子みてきます」

JN「あっ、テヒョンア！」

ヒョン達が後ろで叫んでいるのを無視して、Aが出て行った方へ向かった。

「あれ、テヒョンオッパ」

TH「A…」

トイレまでたどり着く前に廊下で会ったのはA。
よく見れば目元が赤く腫れていて、泣いたのがわかる。

「どうしたんですか？そんなに焦って」

TH「いや…」

「みんなまだ楽屋ですよね？戻りましょ」

TH「A、平気？」

「何がです？」

そう言いながら僕の手を掴んで歩き出すAは至っていつもどおりにも見える。

TH「A」

その掴まれた手を引っ張って、こちらをむかせる。
涙の跡がうっすら見える頬を両手で包んで、目を合わせる。

TH「嘘、つかないで。ちゃんと何があったか話して」

「…」

Aは少し口を継ぐんで、そして何でもないです、と笑った。

「調子が良くなかっただけです。armyに100%を見せられなくて悔しかっただけです」

Aは人に弱みを見せない。そして、頑固だ。
自分がこれ以上問い詰めたところで彼女が何か話してくれることはないだろう。

TH「そ…っか」

今の自分にはそれしか言うことはできなくて、そのままAに手を引かれて楽屋へ戻った。