イケメン戦国〜上杉謙信の愛した人〜

最終夜 ページ29

目を閉じると、彼女の声を、姿を今でも鮮明に思い出す。



彼女の行動１つ１つが愛おしくて、
死ぬ前日の、取り乱した顔でさえも今の自分には尊くてたまらない。





あぁ…




「もう一度……」




"会いたい" 謙信はそう言いかけて、言葉を飲み込んだ。




伊勢姫が自害せざるを得ない状況を作ってしまった自分がそれをゆうのは
贅沢でしかないと思った。



そこへ






(チリン)




鈴の音がし、振り返ると
かつて伊勢姫が飼っていた愛猫がぽつんと座ってこちらを見ていた。









「お前も愛する主人を失ったのだな。


おいで。」








謙信は壊れ物を扱うかのように、そっと猫を抱き上げた。




「何かを得ることは、同時に何かを失うと言うこと。



それが人にも適応されるのならば



俺はもう、誰も愛すまい」







そう、この気持ちは自分だけでなく、周りも不幸にする。








(もう、誰かを失うことなど御免だ。)









苦しげに眉をひそめ、夜空の月を仰ぎ見る。









これは"枷"だ。


自分の軽率な気持ち、行動が伊勢姫を殺した。


この枷を死ぬまで背負い、俺は生きていく。









「俺のこの運命には、もう誰1人として巻き込ませはしない。



伊勢、お前が最初で最期だ。

許してくれ」







そう呟き、謙信は静かに目を閉じる。









______________せめて夢では





お前に幸多き人生であらんことを____________









そう祈り、深い眠りに落ちた。









一体誰が謙信を救えると言うのだろう。



いやきっと誰も居まい。




この "時代" には。









この数年後、生きる時代の違う姫との出逢いが
謙信の人生を救う事は、まだ誰も知らない。






終__________

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