第5話_その二 ページ47
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「ねえ、花火大会中止のままでいいの?」
クラスメイトの飛び降りを自分のせいにされたことに対して何もしなかった悟に、三平は「体の何処からか湧いてくる怒りが生きる活力だ」と言った。
そう言っていた三平が、娘と会える最後のチャンスだったハズの花火大会が中止になったことをそんなに怒らなかった。悟はそれが気に入らないらしい。
「もしかしてもう娘さん亡くなっ__」
「あいつは!…………死んではいない。
あの子は強い子なんだ。誰もが今日を生きるのに必死だった時、生まれてきてくれた。
そう簡単に死んだりはせん」
その目は真っ直ぐ据わっていて、その意思が決して曲がらないことを何よりも示していた。
「戦時色がますます濃くなり、町中に『贅沢は敵だ』という看板が掲げられ、電気器具の使用も食堂で米を出すのも禁止になった。
御国は『産めよ増やせよ』と大号令をだすが人口は減る一方だった。
……そんな中、あの子は力いっぱい鳴き声をあげて生まれてきてくれた。」
小さな命が生まれるのは当たり前じゃなく奇跡だと、三平は続けた。
その奇跡に立ち会えるのもまた奇跡、新しい命が生まれるのに喜び以外の感情はないと。
「赤ちゃんの鳴き声は未来への叫びや!!」
三平が娘に懸ける想いが皆にも広がり、和彦が勢いよく立ち上がった。
「俺らで娘さん探そうよ!」
「町中の老人に声かければ何とかなんじゃねえの?」
「この町に老人どんだけいると思ってんだよ」
「あ"ーァ?」
「ミヒラさんが40の時の子供でしょ。生きてるなら80くらいじゃないの?」
「おー!姐さんさすが!
でもなんでそんなやる気なさそうなんスか」
頬を膨らませた悟が不服そうにAをつつく。駆け寄ってきた竜二がAのスマホを取り上げた。
「ナッちゃんもやんだよ!」
「なんで私まで面倒事に巻き込むの」
「面倒事とか言うなって。Aも三平さんに助けられただろ。『借りは返す』って、お前の口癖じゃん」
「そんなん聞いたことないし言ったことないし。
まず生きてるなら探す価値は充分にあるかもしれないけど…………無理でしょ」
「確かに………………っていや生きてる!」
ねえ、と投げ槍なAの視線に一瞬は頷きかけた三平だが、慌てて言い換えた。
ガヤガヤと騒がしいのを横目に、篤がふっと笑った。
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ん - ナッちゃんってあだ名読者が読みやすいようにこのあだ名も変換できたほうがいいと思います (2020年10月3日 3時) (レス) id: 9a687a3599 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 真夏の少年待ってました!めっちゃキャラいいですね!!那須くんとの絡みが少ないものが多かったので嬉しいです! (2020年8月7日 2時) (レス) id: 8da083b7de (このIDを非表示/違反報告)
さら - はじめまして!!真夏の少年書いてくれて嬉しいです!!私も落ちはひだか君がいいです!! (2020年8月1日 19時) (レス) id: 8178d9f7d8 (このIDを非表示/違反報告)
ayu(プロフ) - はじめまして!更新楽しみにしてます!頑張ってください! (2020年8月1日 15時) (レス) id: 3c6e877405 (このIDを非表示/違反報告)
姫 - 今日から始まりましたねオチは私的に飛貴くんがいいです (2020年8月1日 0時) (レス) id: 1c8b5a85be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:だいふくリンゴ☆ | 作成日時:2020年7月29日 19時