第4話_その七 ページ42
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父親が死んだ。
そんな事実、簡単には信じられなかった。
「…………一緒にスイカ食べながら花火見るって言ったじゃん」
冷たくなった手を握っても、握り返してはくれない。母は力をなくして座り込んでいる。
「お母さん…………生きてるよね、死んだなんて冗談だよね……」
「私もそう思いたい、」
母の大きな目から滴が零れた。
ここで泣いちゃダメだ、とAは上を向いて涙を堪えた。
翌日、葬式が執り行われ、Aは暗い顔のまま出席した。
葬式には親族や父の友人、道史と奈津子も来ていたが、Aはどうも話す気にはなれなかった。
「………………大丈夫?」
「大丈夫に見える?」
「だよな」
葬式を終えて、へとへとになって家に帰った頃には、青い空が夜の色に染っていた。
そんな空の色と比例して、Aの心も真っ黒に塗りつぶされたみたいだ。
「………………花火見るって約束したの」
「俺には話聞くことしかできないから、なんでも話していいよ」
そこでやっと、Aの目から涙がぽろぽろと落ちた。大好きだった憧れの父が死んで、やっと現実を受けいれた。
黙ってAを抱きしめた道史の声も震えている。
「!」
ちょうどその時、腹の底に響くような爆音がした。反射的に上を見ると、色とりどりの花火があがっている。
「花火大会……始まっちゃった………………」
「…………」
お父さんが隣にいる筈だった。
母は「あの花火と同じくらい高いところから、お父さんはAを見守ってくれてるよ」と励ましてくれたけど、Aはそう素直にはなれなかった。
「…………て、」
「え?」
「…………花火なんて綺麗なもんか」
憎悪に満ちた瞳で空を睨めつける。
その日からAは、綺麗な花火が、そしてそれを見て喜ぶ人達の声が、大嫌いになった。
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ん - ナッちゃんってあだ名読者が読みやすいようにこのあだ名も変換できたほうがいいと思います (2020年10月3日 3時) (レス) id: 9a687a3599 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 真夏の少年待ってました!めっちゃキャラいいですね!!那須くんとの絡みが少ないものが多かったので嬉しいです! (2020年8月7日 2時) (レス) id: 8da083b7de (このIDを非表示/違反報告)
さら - はじめまして!!真夏の少年書いてくれて嬉しいです!!私も落ちはひだか君がいいです!! (2020年8月1日 19時) (レス) id: 8178d9f7d8 (このIDを非表示/違反報告)
ayu(プロフ) - はじめまして!更新楽しみにしてます!頑張ってください! (2020年8月1日 15時) (レス) id: 3c6e877405 (このIDを非表示/違反報告)
姫 - 今日から始まりましたねオチは私的に飛貴くんがいいです (2020年8月1日 0時) (レス) id: 1c8b5a85be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:だいふくリンゴ☆ | 作成日時:2020年7月29日 19時