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「兄ちゃんとね、話した」
画面越しの声が震えている。それでも確かに、彼女はそう言った。
「……そっか」
その声に、わたしはそれだけ言って頷いた。それはわたしがわざわざ首を突っ込んでお節介を焼かなくても、きっと彼らなら大丈夫だと思ったから。
「姉さんの言う通りだったよ。きっかけくれてありがとう」
「ありがとうだなんて、わたしは何も……吟子ちゃんが頑張ったんだよ」
吟子ちゃんからそんな電話があったのは、秘密がバレた数日後のことだった。
難破くんが真面目なフリして白百合に通っていると知った時は随分とショックを受けているみたいだったけど、彼女なりにちゃんと受け入れて、話をしたんだという。
「そう思うとあたし、ホント周りの人に恵まれたなあって思うんだよね。姉さんだけじゃなくて、タケ兄とか伍代とか牧野先輩とかさ、色んな人に背中押してもらって、やっと向き合えた」
「あたしひとりじゃ受け入れられなかったよ」と、自虐気味に吟子ちゃんは言うけれど。……わたしは思う。周りに集まってくる人の評価は、良くも悪くも中心に立つ自分の評価で決まる。だから、吟子ちゃんの周りに良い人ばかり集まるのは、吟子ちゃんが良い子な証拠。素直で優しい吟子ちゃんだから、周りの人達もそんな彼女を心の底から助けたいと思うのだ。
「あたしが兄ちゃんに憧れてるみたいに、兄ちゃんも“普通の学校生活”に憧れてたんだよな……兄妹なのに知らないことばっかでさ、あたし、もっとちゃんと兄ちゃんのこと知りたいって思ったよ」
ぐす、と鼻をすする音。泣き腫らした声だったけど、そこにいるのは無理して笑おうとしていたあの時の吟子ちゃんとは違う、いつもの明るくてかわいい吟子ちゃんだ。
それに何より、今回の一件を経て吟子ちゃんの様子はどこか大人になったように見えて。こうやってぶつかりながらも成長していくんだね、きっと。
「白百合入ってシャバくなっちまったって思ってたけど、今もずっとカッコイイままだった！兄ちゃん最強！！」
「ふふ、吟子ちゃん、難破くんのこと大好きなんだね。今更だけど」
「あったりまえじゃん！」
にこにこ笑ってピースサインをする彼女の姿が浮かんで、頬が緩む。
わたしは一人っ子だから、きょうだいの話は正直ピンとこない。
でも、ふたりはこれから何があってもずっと、素敵な兄妹でい続けるんだろうなと思った。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
