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彼らはもちろん難破くんのことも猛さんのことも知らないので、「頭呼んでこい」なんて言われてもぽかんとしている。そして当然、馬鹿正直に市松の“本当の頭”の名前を口にするわけで。
「伍代さんっすか？」
確かに、この市松のトップは直樹くんだ。でも猛さんは弟の難破くんが市松を制覇したと思い込んでいる。その認識の齟齬に、猛さんは「あ？」と訝しげに眉を顰めた。やばい、今すぐ止めなきゃ。
「猛さん！すんません、こいつら1年なもんで」
「頭っつったろ」と唸る猛さんの言葉を遮るように、直樹くんとふたりで割って入る。わたしは猛さんにぺこりと会釈をしてから、光の速さで直樹くんの後ろに隠れた。
吟子ちゃんのお勉強の件でちょくちょく顔は合わせてたけど、こうしてヤンキーモードの彼を見るのは初めてなもので。なかなかに威厳が強くて辟易っす。
「お前ら、剛についてけば間違いねえから。アイツがてっぺんまで連れてってくれるぜ」
難破くんが市松の頭だと思い込んでる猛さんの言葉に、1年生たちは揃いも揃って「？」って顔。わたしは直樹くんに隠れて猛さんからは見えてないのを良いことに、話合わせて！と全力の口パクで訴える。それでもやっぱり届かなくて、どうにかして理解しようとしてくれる彼らをさらに困惑させてしまった。
「お前らもういいから、向こう行ってろ」
これ以上ボロを出せば嘘が露呈しかねない。そうなる前に早いこと1年生たちを追い払った直樹くんの判断は非常に賢明だと思います。
「剛は？ちょっくら顔見てこうと思ってよ」
「難破なら昼飯に出ましたよ」
直樹くんの意見に賛同するように、彼の後ろで何度も頷く。これで帰ってくれれば…！と望みを抱いていたけれど……しかしそんな望みはあっさり打ち砕かれた。「ふぅん」と相槌を打った猛さんは、そのまま市松へと足を進める。
「すぐ戻るだろ」
「……そのっ……え、駅前まで行くって言ってたので…！」
「だからしばらく戻んねえっすよ」
完全に難破くんを待つつもりで通り過ぎていこうとする猛さんの腕を、本能的に掴んでしまった。「どした？」と見下ろしてくるので後戻り出来ずに、吃りながらも口をついて出た嘘を並べると、直樹くんが助け舟を出してくれて。
「そうか。じゃ消えるわ」
その言葉で漸く納得してくれたみたい。ほっとするわたしたちを残し、猛さんは車に乗って帰って行った。
……本当、死ぬかと思った。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
