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「なにが『天下無敵』じゃあ！」
難破くんが動けないのをいいことに、散々蹴りまくった安藤は、最後にそう吐き捨てると、満を持して踵を返した。
……難破くんが勝てないなんて。じゃあ一体誰がこのハゲにひと泡吹かせられるって言うの。
「…………オイ、待てやコラ」
「！」
…………なーんてね。
確かに、ふたりの実力に大差はない。削りあって消耗戦に持ち込めば、どっちにも勝機はあったけれど。難破くんはある要素において、圧倒的に安藤を上回っていた。
それは“気持ち”。
ヤクザの息子としてぬくぬく育った安藤にはとても持ち得ないものを、難破くんはたくさん持っている。彼の双肩にずしりとのしかかるそれは時に枷にもなりうるけど、彼が強くあれる何よりの証拠だ。
「ムカつくんだよ、てめえの極道ごっこはよ」
完全に勝ったと油断した隙に叩き込まれた怒涛の波状攻撃に安藤は為す術もなく。とうとう白目を剥いて、どさりと地面に倒れ込んだ。
…………や、やった……！！
「てめえ……！俺のために修学旅行を……」
涙を拭った大丸くんが、震える手で特攻服を掴む。難破くんは優しく笑って、その手を解いた。
「いいんだよ。退屈してたから」
…………わたしの友達は、みんなお人好しで人の話を聞かない。
でもわたしはそんなみんなが大好きで、かく言うわたしも友達のためならどこまでもお人好しになれる。……こんな素敵な関係性になれる存在が3人もいるなんて、過去のわたしに教えてあげたらびっくりするかな。
「つかお前、まだあの子にホレてんだな！」
「！……アホ！こんな時にンなこと言うなよお前っ！」
ニヤリと笑って茶々を入れると、血だらけの頬をぽっとピンクに染めた大丸くんは、あわあわしながら難破くんと水野さんを交互に見はじめる。そのガタイでその怪我で一丁前にモジモジされるとなんか変というかウケるというか。
「はぁ…………」
ほっとすると一気に全身の力が抜けて、ここ数日ちゃんと寝れてなかったと思い出す。眠いし痛いし帰りたいし、半乾きの髪はギシギシだし、身体は冷えきっているけれど。
彼らの確かな優しさに、わたしは安堵のため息を長く吐き出した。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
