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どうやら難破くんは、お腹をこわした島崎くんに付き添ってこの病院に来ていたらしい。レントゲンを撮りに行く彼に「手ェ握ってくれ！！」と情けなく頼られた難破くんは、わたしたちに後ろ髪引かれつつも去っていった。
そのことを戻ってきた大丸くんに話すと、案の定彼は目をまるくさせて驚いていた。
「はぁ？難破がこの病院に？」
「うん」
「お前らまさか、俺らが広島にいるワケ難破に言ってねえよな」
「大丈夫だ。完ッ璧に誤魔化した」
「ギリギリでしたけどね」
自信満々に答える直樹くん。でもあれはかなり無理があったと思うよ。わたしも血迷ったし。
「アイツの修学旅行を台無しにする訳にはいかないからな」
……本当に、これが全てだと思う。
同じ広島に難破くんがいるなら縋りたい気持ちも一瞬浮かんだけど、彼が初めて『普通の高校生活』の中で体験する修学旅行だ。それを壊すわけにいかないと思った。
「しっかし、派手にやられたな」
「JJ出てから記憶ないですわたし」
「これくらい何でもねえだろ」
「………………大丸、これからどうする？」
勝っても安藤は取り引きに応じないし、そもそも勝てるかどうかすら怪しい。わたしたちが何を差し出しても、安藤は水野兄妹を放すつもりはないようだし。勝算のない喧嘩を続けても、その先に明るい未来はない。“お先真っ暗”とはまさにこのことだ。
「……わかんねえ。俺さ、水野が人の悪口言ってるとこ、聞いたことねえんだよ」
しばらく間を置いて答えた大丸くんが言う。
思春期の女の子特有の、誰彼構わず陰口を言いたくなるあのお年頃。そんな時期を迎えてもなお、水野さんは誰に対しても優しく、自分の家族が壊れてしまっても、いつもと変わらない笑顔で接してくれたのだと。
「あんな良い奴がなんであんな目に遭わなきゃいけないんだよ……おかしいだろ！」
そんな優しい水野さんに何もできない自分が情けないと、大丸くんは続けた。腫れた拳を握りしめて、悔しそうに顔を歪める。
「あの野郎の面に一発だって入れてねえんだぜ……中3の時も、俺はガキで…何も気づいてやれなかった。結局俺はアイツに何もしてやれねえのかよ」
いつも能天気で、バカみたいなことで楽しそうにはしゃいでいる大丸くんの、こんなに哀しそうな顔を見るのは初めてで。
看護師さんに呼ばれて診察室へ向かうその背中は、ひどく寂しそうに見えた。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
