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「…………上等じゃワレ」
「！」
それで本気になったのか、こちらも上着を脱ぎ捨てる安藤。そして、そんな彼が懐から取り出してきたのは。
「け、警棒…？！」
「マジかよ……」
鉄製のソレを振ると、ビュンッと空を裂くエグい音がして。ニヤリと笑った安藤は、畳み掛けるとばかりに、僅かに後込む大丸くんに襲いかかる。
やばい。あんなのにやられたらひとたまりもない。これにはやる気満々だった大丸くんも回避と防戦一方になってしまって、まるで勝ち目が見えない。
「もういいから逃げて大ちゃん！」
「ぶ、武器持ち相手はマズいですって！」
「大丸もうやめろ！コイツらどうせ約束守んねえよ！」
一対一のタイマンに武器を持ってくるような卑怯な人間だ。もし仮に大丸くんが勝っても、約束通り兄妹の借金を帳消しにする確証はない。ボロボロになって勝ったところで貧乏くじを引くだけだ。
ならここは無駄に殴り合うんじゃなく、隙を見て逃げるのが最も賢い選択だ。……それでも大丸くんは、その目に宿した闘志を消さない。
「……ぬぁあああああ！！」
叫んだ大丸くんは警棒攻撃を掻い潜り、めげずに安藤に立ち向かうけれど。余裕そうな安藤には一発も入れることはかなわず、体制を崩したのをいいことに、そのまま押し倒され、馬乗りになってタコ殴りに遭っている。
「やめて！もうやめて！お願い……っ！大ちゃん逃げて！」
水野さんが今にも泣き出しそうな声で訴えても、その声は届かない。
ふたりの元へ割り込んで行きそうな水野さんを必死で抑えていると、ぽん、と肩に冷たい手が乗る。
「よォ姉ちゃん、俺らとも遊んでくれや」
「……ひっ、？！」
今は安藤と大丸くんとのタイマンだ。……とはいえ、取り巻き連中は余所者のわたしたちを許しはしなかった。向こうの方では直樹くんも囲まれていて、今わたしを助けられる人は誰もいないのだと知る。
ガタガタと震える水野さんを守るように抱きしめて、精一杯の威嚇を込めた目で不良たちを見上げることしかできなかった。
「こがぁなモンでのう……ワシの無敗伝説は終わらんのじゃ！」
殴られ続けた大丸くんが動かなくなった頃、安藤はゆっくりと立ち上がり、高らかにそう宣言した。オオオオオォォオ！！とテンションの上がった取り巻きたちの叫び声が響きわたる。戦況が安藤一色に染まると同時に、徐々に広がった絶望に呑みこまれていく。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
