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水野さんが安藤なる男に話をつけ、彼が営む『JJ』という店に呼ばれたわたしたち。見るからに危なそうな店構えに、後込みそうになる。だけどわたしは腹を括って、建物に踏み込んだ。
赤や青のライトに照らされた薄暗い店内にはガラの悪そうな男の人たちが勢ぞろいしていて、その真ん中のソファーで偉そうに寛いでいる坊主の男が安藤なのだという。
ギロリと光る眼が、まるで品定めでもするようにわたしたちを睨め回す。怖くて仕方なかったけど、わたしを背中に隠した直樹くんがぎゅっと手を握ってくれて、なんとか気を持ち直した。
「友美ィ、東京で早速ふたりも誑し込んできたんか」
「俺は水野の中坊ん時の同級生だ。コイツの借金のことでアンタに話がある」
水野さんに変わって前に出た大丸くんが言うと、敵意剥き出しの安藤は「友美置いて居ねや」とその言葉を一蹴。なるべく話し合いで解決したいところだが、相手にハナから応じるつもりはないようだ。
「だいたいソイツの借金は……」
「700万はねえよ。そのほとんどが利息なんだろ。アンタがどんなアコギの商売しようが知ったこっちゃねえ……ただ、コイツら兄妹から手ェ引いてくんねえかな」
要求を言って、下手に出つつ様子を伺う。できるだけ穏便に収めるために、少しでも安藤を逆上させないように。大丸くんは今にも掴み掛かりたいのを必死で抑えているんだと、見ているわたしにもわかった。
…………と、その時。
「友美！」
水野さんを呼ぶ声がして、現れたのは気の弱そうな男の人。水野さんの態度から見るに、彼がお兄さんの幸男さんだろう。
彼は安藤から多額の借金を背負わされ、名ばかりの舎弟として、パシり同然にこき使われている。……はずなのに、何だか様子がおかしい。
「帰ってきてたのか」
「よかった無事で………何もされてないよね？」
「……え？なにが？」
確かに水野さんが事前に言っていた通り、幸男さんは優しくて人あたりの良さそうな人だ。今もにこにこと笑って彼女に接している。
けど、普通こんな危険な場所に妹が乗り込んできたら、必死に追い払おうとするのが兄ってもんなんじゃない？
……いや、違う。
そもそもこの人には、ここが危険だっていう認識がないんだ。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
