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「関係ないって言ったでしょ。鬱陶しいんだけど」
「…………水野、覚えてっか？」
相変わらず冷たくあしらう水野さんに、大丸くんは諦めずに優しい声をかけ続けた。
彼の口から語られたのは、3年前の、地元の夏祭りの話。勇気をだして水野さんを誘ったけど、急に来られなくなって、彼女が姿を消したあの日の話だ。そんな楽しかった思い出を少しづつ鮮明にしていくように、大丸くんは話を続けた。
盆踊りに乱入して盛り上がって、もはや夏祭りというより夏フェスみたいになったんだ、と。そう言うと水野さんは、強ばっていた表情をようやく緩めて、ふふっと小さく吹き出した。
「どうせ裸になったんでしょ、大ちゃんが」
「……バレたか」
「竹中か……懐かしいね」
「戻りたいよ」と、心の底から言う水野さんの声色が、眠気の中でもはっきりと分かるくらい寂しそうで、気の毒で。何かできることはないかと、眉を下げた大丸くんが「話だけでも聞かせてくれよ」と懇願すれば、彼女はとうとう話し始めた。
「……中3の時に母さんが再婚したんだけど、それが酷い男でさ。大ちゃん、うちのお兄ちゃん覚えてる？」
「え？……幸男くんだろ、2個上の」
「お兄ちゃん要領悪いでしょ？私と母さん庇って毎日のように殴られてた……」
それから、耐えきれなくなってその男から逃げ出し、母親は福岡の祖母の家へ、水野さんとお兄さんは二人暮らしをすることになったんだと。つまり大丸くんが楽しかったと語る夏祭りの日……彼女が突如姿を消した日。……あの日に彼女たちは、暴力男の元から逃げていたのだ。
……だけど、当時中学3年生と高校2年生の兄妹に生活能力なんてあるはずもなく。程なくして、引っ越し先でお兄さんは、スロットで擦って悪い人たちに借金をつくってしまった。
……その額なんと700万円。とても若い兄妹には払いきれない金額だ。それにはさすがに眠気も吹き飛んで、衝撃の事実に度肝を抜かれて目を見開く。
「700万円？！スロットだけで……？」
「わかんない。でも借用書にはお兄ちゃんのサインがあったから……」
そして、早く金を返したいなら割のいい仕事を紹介すると言われ、高校3年生なのにも関わらず、水野さんは夜のスナックで大人の男を相手に奉仕をしているらしかった。事情はどうあれ、未成年が夜の仕事をするのは犯罪だ。それなのに店側も何も言わないなんて。
水野さんに仕事を紹介したお金の借り先はまさか………。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
