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ぴたり。今の今までご機嫌だった大丸くんが、たちまち険しい顔をして足を止めた。何事かと視線を追う先には、何気なくすれ違った女の人の後ろ姿。弾かれたように駆け出した大丸くんは、その人の肩を掴んだ。
「オイ！水野！」
「……ってえな、この野郎！」
「俺だよ俺！竹中で一緒だった大丸だよ」
「大ちゃん……？」
初めこそは女の人は訝しげな顔をしたけど、大丸くんの随分と親しげな物言いと砕けた態度から、おおかた、中学時代の同級生かなにかだろう。
……でも、水野って名前、どこかで聞いたことがあるようなないような。
「何だよ、こっち帰ってきてんの？……しっかしお前、すげえ派手になったなぁ。つうか今どこで何やってんだよ？」
「こっち帰ってきてんの？」ってことは……今は千葉じゃない所に住んでるのかな。
何が何だか分からず、ふたりのやり取りを見つめるわたしたちを置き去りに、大丸くんは久しぶりの再会がよっぽど嬉しかったのか、畳み掛けるように質問を重ねていく。しかし、水野、と呼ばれたその女の人の顔は、みるみるうちに引きつっていった。
「………………別にいいじゃん」
「え？」
「私がどこで何をしようが、大ちゃんには関係ないでしょ」
きっぱりとそう言った水野さんは、くるりと踵を返して行ってしまった。そんな彼女が入っていったのは、ギラギラと派手なビビットカラーのライトが灯る、大人のスナック。なんか危ない匂いがしますね。
中学時代の知り合いに合うとろくな事が起きないっていうジンクスかなにかでしょうか。まぁわたしは特にトラブルが起きたわけではないけど、直樹くんと真宮との一件はわたしも巻き込んだ大事件になったし、難破くんの友達はいじめられて大怪我したし。
「大丸、あの子ってもしかして……」
「！」
静かに近づいた難破くんが言う。そして、わたしはその言葉で全てを思い出した。
いつか大丸くんが話してた、中学時代に突如転校して会えなくなった初恋の人。そういやその人のことを大丸くんは『水野友美』と言っていた。ビンゴじゃん。
こっくりと頷いた大丸くんは、さっきまでうるさく回っていた口を固く引き結んで、寂しそうな目で水野さんが入っていった建物を見つめていた。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
