夜明けのいばら道�� ページ44
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｢ふん、舐めてんのはそっちよクソジジイ｣
逃げようとしたところで逃げられはしないと分かっている野薔薇は、すっかり変わり果てた態度になった鶴瓶を鼻で笑い、腰に手を当てる。
事件は無事終わった…………と言いたいところだが、
｢……………………逃げんな｣
鶴瓶が目の前で口から血を流しながら激痛に襲われる様を見ても、Aの怒りは収まらない。
転がっていた葉巻用ナイフを手にしたAは、ゆらゆらと鶴瓶に近づいていく。何をするんだと野薔薇が止めようとするが、全身から溢れる殺気に何も言えなくなる。
｢バカバカ五月蝿いねん。情報買うて稼ぐ言うとったな。他の学生にも同じことする気やったんか。あ？｣
｢っひ………………｣
気づくとAは鶴瓶に馬乗りになり、右手で首を締め上げながら左手にナイフを構えていた。
必死で息を吸おうと開いた口の奥にナイフの切っ先を向け、光の灯らない瞳でその哀れな顔を見下ろす。
ギリギリ触れないくらいのバランスで口の中にナイフを突っ込むが、恐怖で声も出せない鶴瓶は、ごめんなさいごめんなさいと謝りながら涙を零すだけ。人に散々言っておいていざピンチになったら無様に命乞いなんて、そんなの許してたまるか。意識のない間にどれだけ情報を寄越したかも定かではないし、もうここで消してしまうのが手っ取り早いのではないかと思ったAは、両手でナイフの柄を掴み、それをすうっと振り上げた。
｢っ、A先輩ダメ！｣
野薔薇の叫び声も耳に届かず、振り上げたナイフを鶴瓶の喉に突き立てようと、勢いよく振り下ろす。
が、
｢………………『ころ す な』｣
─────ガンッ
掠れた声と共に、Aの腕が動く。
ナイフは鶴瓶の顔の真横の床に突き刺さり、ハッと我に返ると、白目を剥いて泡を吹く鶴瓶が目に飛び込んできた。
｢あ、私、何して…………｣
ナイフを取り落とすAはいつも通りで、無事でよかったと抱きしめられて泣きじゃくるその顔にも変わりはなかった。
｢………アンタたち優しすぎるのよ。呪術師のくせに｣
彼女の可愛い手を殺人という血に染めないように棘から紡がれた掠れた最後の言葉と、2人を馬鹿にされて我を失ったAの殺気。それは紛れもない、仲間を想う2人の優しさだった。
その優しさに触れ、何となく2人との距離が縮まったと実感した野薔薇は、いつまで抱き合ってんのよバカップル、と笑った。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2021年2月26日 12時
