夜明けのいばら道�� ページ43
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｢……………………言葉には気ィつけろ｣
低く発されたその声はまるで別人のようで、鶴瓶はひゅっと息を飲む。そして次に、Aはカーディガンのポケットから鶴瓶の名刺と黄色いクマのキーホルダーを取り出し、キーホルダーに付いていたチェーンで名刺をぐるぐると巻き付けていく。
｢………………そういう事か｣
野薔薇の術式、芻霊呪法は、人形に敵の身体の一部を貼り付け、金槌で打ち込んだ釘と共に遠隔で呪力を流し込むもの。藁人形も金槌も釘も鶴瓶の手にある今、彼女は戦う手段を失った……と思っていた。
｢話が下手なんだよ。吐瀉音でも聴いてた方がマシだわ｣
名刺は特殊な樹でてきた紙。その紙は鶴瓶の舌とリンクしている。つまり、鶴瓶の“身体の一部”であった。
それに加え、小さなクマの“ぬいぐるみ”……。
Aが何をしたいか気づいた野薔薇はニヤリと笑い、カツカツと“ピンヒール”の高い踵を鳴らした。
｢お、おい、待っ─────｣
地面に落ちたぬいぐるみと名刺に向けて、野薔薇が足を振り上げる。それを止めようと鶴瓶が言葉を探すが、もう遅い。
鶴瓶の敗因は主に2つ。
ひとつは、野薔薇がちょろそうなド新人でもか弱い3級術師でもなく、『釘崎野薔薇』であると分かっていなかったこと。もうひとつは、いつも温厚で平和主義であるAの、人格が変わるたった一つの地雷を踏み抜いたこと。
｢無駄だクソガキ！悪あがきは───！｣
｢黙れ｣
鶴瓶の抵抗も虚しく、振り下ろされたピンヒールの踵がキーホルダーと名刺を貫く。その瞬間、凄まじい呪力が辺りに迸り、壁一面に広がっていた札が燃え落ちる。そして、紙とリンクしていた鶴瓶の舌が、バチンと爆ぜた。
｢ガ、ああああああああああああああッッ！！｣
舌からだらだらと血を流す鶴瓶は、その痛みに悶えながら地面に転がり、ほふく前進の要領で扉へと逃げ出した。腰を抜かしたのか、口内を劈く痛みに叫び声は絶えない。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2021年2月26日 12時
