夜明けのいばら道�� ページ31
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目の前できゃっきゃっと話しているAと棘の会話は相変わらず意味不明だ。Aは元より人見知りで口数が少なく、人と話すのが苦手。だから棘のように、変に頑張って話そうとしなくても意思疎通のできる相手とは相性がいい。
だけど野薔薇にとってはそうではなかった。信頼を築くために言葉は必須だし、ズバッと容赦なくものを言う野薔薇にとって、会話の成立しにくい相手はどちらかと言えば苦手なタイプだ。だけど、棘がおにぎりの具で話す事情もよく分かる。だからこそ、何とも歯痒い所にあった。
｢まあいいけど。今度から面倒そうな人に話しかけられたらさっさとスルーすることね。それじゃあ私たち、買い物の続きあるから｣
｢高菜｣
｢はいはい、高菜高菜｣
去り際にそう言われ、その意味もよくわかっていない野薔薇は適当に返事をしながらAの腕を引いて歩き出す。…………しかし、そんなAのもう片方の手を、棘はぐいっと掴んで引き寄せた。
｢おわっ、｣
｢………………ちょっと、何？｣
｢おかか｣
｢いや、おかかって言われても｣
棘の『おかか』は否定、NOを意味する。
ぶんぶんと首を振る身振りに、これ以上買い物を続けるなと言いたいのは誰の目にも確かだった。
だけどその理由までは判りかねない。きっと彼女を取られて嫌なのね、くらいにしか思っていなかった野薔薇は、掴んだAの手を思いっきり引っ張ると、大丈夫よと笑ってみせた。
｢はいはい、デートしたい気持ちは分かるけど今日は私とって決まってるから。心配しなくても深夜まで連れ歩いたりはしないわ｣
｢…………高菜｣
｢ちょ、野薔薇ちゃ………………っ｣
ぐいぐいと引っ張る力に抗えず、引き摺られるように棘から離れていく。何か言いたげな棘の表情に、戻って話を聞こうとするのだが、彼の姿は人混みに紛れてあっという間に消えていってしまった。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2021年2月26日 12時
