帰らせて下さい、切実に。【ナンバMG5】 (ページ34)

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「ない！」

周りに人がいないことを確認し、「訳あって入るだけなんで許してください」と呪文のようにブツブツ唱えながら男子トイレに入って、このまえ難破くんが言っていた特攻服の隠し場所を覗いてみた。

そうしたら案の定、そこに特攻服はなくて。悪い予感が的中してしまったのだとわかる。

「そんなことしたら今度は伍代くんが危ないよ…………」

伍代くんはきっと、金髪特攻服のヤンキーに成りすまして殴り込みに行ったんだ。確かに、そしたら難破くんが特攻服じゃないってことも証明できて、彼を解放することができる。

でも。

もしあのヤンキーに伍代くんが負けて、金髪特攻服が伍代くんだって認識されてしまったら。ほんとにもう、とんでもない目に遭うかもしれない。例えば、そうだな……生きたまま全身バラバラにして、肉片を全国にばら撒かれるとか。

(そんなのダメ！！！)

さーーっと寒気が駆け上がる。バラバラにされるかどうかは置いておいて、間違いなくろくな目には遭わないだろう。だったら、楽しい楽しい日本全国津々浦々旅★(絶望)が始まる前に、どうにかあの喧嘩を止めなくちゃ。

でも、わたしは喧嘩ができない。無策で突っ込んだところで何の戦力にもならないし。ただでさえ片腕を庇いながら戦う伍代くんに更なる枷を引かせることになってしまう。それならハニトラでもしてわたしが身代わりになる？……いや、あの場においてそんな巫山戯た真似は通用しないだろうな。

「うううううどうしよう……」

何とかしてでも伍代くんを助けたい。でもどうしていいか分からない。今までだってそうだ、わたしはずっと伍代くんに助けられてきた。だからこそ、彼が困った時はわたしが力になりたい。なのに、何もできない。

現時点において、最も賢くて彼らに迷惑をかけない行動は、伍代くんの言う通りにして大人しく帰ることだ。でも、仲間のピンチにただ寝てるだけなんて、そんなのあんまりだ。

…………自分のあまりの無力さに泣きそうになっていると、ふと思いついた。

「あ、そうだ…………」

わたしが勝つ必要はない。ただ、あの喧嘩を強制的に終わらせればいいだけの話。

「…………っ！」

こんな子供みたいな考えが上手くいくとは分からない。でも、今はこれしかない。わたしは滲み出てくる涙を拭って、家まで走っていた。

失敗したらその時だ。わたしも一緒に死んでやる。

待ってて、ふたりとも。絶対助けるから。

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