帰らせて下さい、切実に。【ナンバMG5】 (ページ3)

今日:37 hit、昨日:67 hit、合計:23,509 hit

#下僕少女と孤高の男ページ3

-

不良の巣窟、市松高校。

在学する全ての生徒がヤンキーで、授業だとか行事なんて概念はもはや存在しない。揉め事大好き、暇あらば喧嘩、抗争に明け暮れる毎日。物騒を極めに極めたような、最悪の高校。

ここにだけは絶対に通いたくないって思ってたのに。何ででしょうか。

「姉崎〜、ココア買ってきてよ」

「あたしミルクティー」

「はいっ」

机に乗せた足を堂々と組んで、こちらに見向きもせずに言ってくるトウコさんとアカリさん。入学初日から元気いっぱいパシられているわたしは、素直に頷いた。

いつもふたりには理不尽なこと言われるけど、今となっては彼女たちに反抗しようって気はもう起こらない。そんなことしたら痛い目に遭うって分かっているからだ。それにこうして下僕に徹して汚れ仕事をこなしていれば、時々ジュースをついでに買ってくれたりとか、いい思いもできる。

不良に目をつけられた時点で普通の高校生活はもう送れないから。だからせめて、これ以上事態が悪化しないように、今できる最大限の“普通”を享受できるように。わたしは今、その為だけに生きている。

(や、ヤンキー怖い……！)

泣きそうになりながらも、ジロジロ見てくる不良の先輩方の間を電光石火の如く高速で駆け抜け、自販機でココアとミルクティーを買い、再び電光石火で教室への道を駆ける。

ああ、何でこんなになったんだろう。

高校生って言ったら、友達作って彼氏作って部活入って、テスト前になったら「勉強やだね〜」なんて言いながらマックで参考書広げて、クラスで一丸となって体育祭やら文化祭やらに挑む青春が醍醐味じゃん。

まぁわたしみたいな陰キャがそんな青春できるなんて期待してないけどさ。ヤンキーの学校に入ってパシられ続けるなんて、そんなのあんまりすぎる。

「これ……ココアとミルクティー」

「おーす」

「は？コレぬくいやつじゃん。まァいいや」

怖い思いをして買ってきた飲み物を渡しても、ありがとうの一言すら貰えない。むしろネチネチと文句を言われながら、わたしは漏れそうになるため息を押し殺した。

-