帰らせて下さい、切実に。【ナンバMG5】 (ページ1)

今日:3 hit、昨日:67 hit、合計:23,475 hit

#プロローグページ1

-

高校1年生、春。

「ねえ、放課後スタバ行かない？」

「いいね〜！」

真新しい制服に身を包んだ女子高生たちが、散った桜が彩る並木道を、楽しげに話しながら歩いている。

わたし、姉崎Aも彼女らと同じ、この春から高校生。彼女らのように、これから青春を過ごす新たな学び舎へ…

……行けたら良かったんだけど。

「オイ、早くしろよ」

「おっせえな」

「ごっ、ごめん……！」

くるりと振り返る女子生徒ふたり。キラキラとした笑顔で学校へ向かう生徒とは違い、制服を着崩して髪を巻いてコテコテのメイクをした彼女たちは、誰の目にもわかる、ヤンキーだ。

そしてわたしは中学の頃から彼女らとつるんで…………いや、違う。つるむなんて言ったら対等になっちゃうな。もうこの際ハッキリと、単刀直入に言おう、わたしはふたりのパシリだ。

「つうか何その頭」

「え、と……その、イメチェン……？」

「アレだ、高校デビューだ！マジウケんね」

「気合いの入れ方カワイイかよ！」

「は、はは……」

今のわたしの気持ちを率直かつ端的に表せる言葉があるとするならそれは、『帰りたい』だ。「カワイイ」なんてケラケラ笑って言うふたりだけど、それが褒め言葉での「可愛い」じゃなく、見下して冷やかす意を持つ「可愛い」であることはわたしにも分かる。

引き攣った頬を無理やり引き上げて乾いた笑みをこぼすと、ふたりは「何笑ってんだよキモ」と鼻で笑って歩いていく。ここで真顔でいても「オイ笑えやノリ悪ぃなカス」って怒られてただろう。

本当、陽キャって理不尽で気分屋で我儘で……嫌になる。

そしてこれは、そんなギャル達の我儘にいつも振り回されてる可哀想な陰キャ(わたし)の青春の話だ。

-