## ページ13
-(no.side)
ふたりを病院に連れて行き、自分たちも治療を受けてから、意識のあるAは家まで送り届けた。
ひと段落し、伍代と真宮は、それぞれのバイクに座っていつものようにブラックコーヒーの缶を開ける。カシュ、と音がして、独特の匂いと共に、中学時代の思い出が蘇るような気がした。
「悪かったな」
「もういいよ」
「親父のことがあってからよ、周りの奴らの目ばっか気になっちまって。ツレのお前にまで蔑まれてるような気がして」
父親が殺しに手を染めたせいで、火の粉が自分にまで飛んだ。
白い目を向けられる度に心は汚れて、味方はいないと錯覚した。そして一緒にいた伍代まで信じられなくなって、目を逸らした。彼はずっと向き合ってくれていたというのに、だ。
それに気づかず自分勝手したのが情けないと、真宮は眉を下げる。だけど伍代が欲しいのは、謝罪の言葉なんかじゃない。くだらない事で笑いあっていた、あの頃の真宮だ。
「もういいって言ってんだろが。俺は分かってる、お前は良い奴だって。バカだけどな」
「フッ……バカは余計だろ」
伍代の心からの叫びに改心した真宮の瞳は、いつかの純粋なものに戻っていた。クククと笑うその笑顔に、伍代の頬も緩む。
「それよりあの変態、どこの誰なんだよ」
「さぁな。どっかのお人好しだろ」
身を乗り出した真宮が、興味津々に尋ねてくる。伍代は答えなかった。ここで難破のことを話すのは、野暮だと思うから。
曖昧に答えを濁すと、「そーかあ……」と真宮はバイクにもたれかかって、遠い夜空を見上げ、呟く。
「…………気合いの入った良い子じゃねえか」
「あ？」
急になんだ、とでも言いたげに。眉を顰める伍代に、真宮はニヤニヤと笑いながら言った。
「伍代くんは貴方たちみたいな汚い真似は絶対しない、だとよ」
涙でぐずぐずになりながらもキッと睨めつけてきたその瞳に、久々に身体が震えた。首を絞めた時も、ほんの一瞬だけ、どこか悟ったような、死を受けいれたような表情をしたのを真宮は見逃さなかった。
それは彼女が、伍代のためなら死んでもいいと、僅かながらに思っていたこと。真宮は内心「あの直樹に女なんて」と舐めていたが、彼の見る目は確かだったらしい。
「大事にしてやれよ」
「拉致っといてよく言うぜ」
「間違いねー」
ふたり揃ってケラケラと笑う。
そんな親友同士を見守るように、穏やかにじっくりと、夜は更けていく。
-
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 61人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はるちよ - とても面白くて毎日読み返しています！リクエスト良いですか？！今の五代くんの話が終わったら寂しくなってしまうので、もしまめこさん さえよえれば、五代くんの話を他にも書いて欲しいです。 (11月10日 18時) (
レス) id: b6e7a94813 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月3日 12時
