episode #91 ページ45
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気づいた時には、その頬に手が伸びていた。
拭った涙が弾けると、Aは驚いた顔をして伏せた睫毛を上げる。
｢え｣
｢何だよその反応｣
｢皇后崎くんが女子の涙拭くなんて幻か何かかなぁと｣
｢相変わらず失礼だなお前は｣
毒のあるその言い方にムッとした迅が彼女の頬を軽く抓ると、Aは不服そうに横を向いた。その横顔は相変わらず無表情で、それでいて生意気で。
前まではただただ鬱陶しかったその態度は、本音を聞いた今では何故か憎めない要素になっていた。迅が何を思って彼女の涙を拭うのか。それは彼の境遇にあるのか、それとも他に理由があるのかは分からない。だけど、ひどく安心する手は、次第にAの涙を落ち着かせてくれた。
｢…………お前の死にたい理由はそれか｣
｢そう、私は早く死んでお母さんに会いたいの。どう？止める気失せた？｣
｢ハナから止める気ねえ｣
｢ほらね。なら…｣
｢でも今は死ぬな｣
｢え｣
君の能力を使ってこの場でざっくりいってくれ、と頼もうとするも、その言葉は遮られた。涙で濡れた顔を上げると、寂しそうな迅の瞳の色に何も言えなくなる。
｢とりあえず、週末までは生きなきゃだな｣
｢…………どうして？｣
｢馬鹿野郎、ダチと出掛けんだろ｣
｢あ、｣
ぐい、と頭を押されて、週末は帆稀と水鶏と出掛ける予定があったのたと思い出した。｢約束くらいは守れ｣と素っ気なく言う迅の言葉に｢ああ、そうね｣と空返事をする。
なんというか、彼の口から約束とか出掛けるとかいう言葉が出てくるのが意外だったのだ。
｢生きてたい理由はねえ、って言ってたな｣
｢まぁ……｣
｢そんなもんなくたって、死ねねえ理由がありゃ生きてていいンだよ｣
｢……なんで君はそんなこと言えるの｣
｢似たような境遇抱えてんだ｣
｢そう｣
これ以上詮索されたくないとばかりに吐き捨て、迅は部屋を出ていってしまう。これまで生きてきた中で、死のうとしたAに｢死ねない理由があれば生きててもいい｣なんて言葉をかけたのは彼が初めてで、Aは開いたままのドアをしばらく眺めていた。
迅の言葉を受けて死にたい気持ちがなくなったというわけではないが、確かに心は揺れている。意外でぶっきらぼうな彼の優しさに、じわぁっと凍った心が溶かされていくようで、Aは手にしかけたカッターナイフを抽斗に仕舞った。
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レン(プロフ) - 桃源暗記の夢小説少ないんでめちゃくちゃ嬉しいです！しかもお話も面白くてもう神かなんかですか?!これからも無理せず更新頑張ってください!応援してます！ (2022年1月4日 22時) (
レス) id: 9afc0ca98b (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - 思わず一気読みしてしまいました！とっても面白いです、更新も無理ない程度に頑張って下さい！ (2022年1月3日 0時) (レス) id: 16a4fd6cb5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜(プロフ) - 久々に更新嬉しい！ (2021年11月17日 18時) (レス) id: bb356cf189 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ(プロフ) - ヒロアカでまめこさんに出会いまして、桃源暗鬼も書いてる！ってなって来ました！これからも引き続き更新頑張って下さい！ (2021年9月12日 11時) (レス) id: 1c4434e42e (このIDを非表示/違反報告)
美桜(プロフ) - もうほんと最高です (2021年8月20日 22時) (レス) id: 75eebcd608 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2021年3月31日 19時
