episode #05 ページ6
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｢…………だからって無人くんの生徒にはならない。
それに、私は私自身が満足できればそれでいいの。死に方なんて、そんなのどうでもいい｣
凍てつくようなその視線に怯みそうになるのを堪え、Aは声の限りそう言った。そうだ。自分の死に際まで誰かの指図を受けるなんて御免なんだ。未来は自分で切り拓くもの。その未来はいらないとA自身が言うんだから、誰の口出しも必要ない。
……………………が、ここで｢そうか｣と引き下がれるほど、無陀野も単純な人間ではなかった。
ふいっとそっぽを向いて｢イヤだ｣の意を顔いっぱいに示すAに、無陀野は｢それなら…｣と言葉を紡ぐ。Aはというと、聞き耳だけを立てて横を向いたまま動かない。
｢それなら条件をつけるとしよう｣
｢条件？｣
｢ああ、そうだ。お前が羅刹学園に入学し、恙無く卒業できたら───｣
ちらりと無蛇野を見やると、彼は顔を背けられているにも拘わらず、ずっとAを見詰めたままだ。
恙無く卒業できたら。息を忘れてその続きを待つAに、無陀野は1度間を開けてから、こう言った。
｢──────A、お前を殺す｣
｢え｣
｢これでどうだ？
無事に卒業できればお前は死ねる。損は無い筈だが｣
あまりに驚きの条件。
それにAは言葉を失い、暫く考えた。
もし無陀野の言うことが本当なら、高校卒業と同時にAに訪れるのは『死』。今のAが何より欲しいものであった。けれど、何度死のうと試みても死ねない。そんなAにとって、｢殺してやる｣という言葉はどんなプレゼントよりも嬉しいもの。
…………なら、もう拒否する理由はなくなった。
｢───分かった。受ければいいんでしょ、入試試験｣
だけど、その約束は必ず守ってね。
この報酬は後払い。後から｢やっぱり辞める｣とはいくらでも言えるものだった。だが無陀野は、その曇りのない少女の瞳に惑わされることもなく。
｢約束だ｣
そう、頷いた。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2021年3月21日 14時
