1カラットの雫【江口拓也】

第34話 ページ34

貴女side

あれから毎日のように良平さんはお見舞いに来てくれた

雨の日も、風が強い日も…
朝イチから、深夜まで

面会時間はとうに過ぎた時間にも、こっそりと彼は駆けつけてきてくれた

…本当は忙しかっただろうに


「羽衣、はいこれ」

ある日、彼は紙袋を持ってやって来た

「喉にいいんだって」

中を開けると蜂蜜レモン味の紅茶の茶葉

私は急いで近くにあった紙に「態々ありがとう！」と殴り書きをする

その紙をみると彼はにっこりと少年のように笑う

「ま、気休めだけど」
そういって紅茶を淹れてくれた

ふわりと香る甘い蜂蜜レモンの香り

「どう？美味い？」

そう、私が口にすると彼は聞いた

…本当は味なんて分からなかったけど、とっても優しい味がするような気がして…

紙に『美味しいよ』と書く

暫く私の顔を見た良平は、「はぁ〜」と大きくため息を１回

そして…

「嘘つけ〜味わかんねーくせに。味覚もまだか…。わりぃ、わかんないのに飲ませて」

何故私が嘘をついてるのを分かったのだろうか

「なに？なんでわかったのみたいな顔してる」

昔からそうだった
私が困ったり、嘘をついたりするとすぐ彼は見抜いてしまうのだ …私って分かりやすい？

「残念でした〜。羽衣の嘘くらい分かります〜。まだまだだね」

そういって彼は笑った

「演技は上手いくせに嘘は下手くそ」

そう言われて思わず苦笑いをする

「…羽衣」

“うん？”

「あー、書くのめんどくさいだろうから、そのまま聞くだけにして」

そういって彼は少しの間言うか悩んだ後

「…だから、戻ってこいよ」

そう私に言った

「…俺が、東雲羽衣の居場所護っとくから」

「俺、待ってるから」

「だから…だからさ、諦めんじゃねーぞ」

そう彼はそれだけ言って、最後の紅茶を飲み干し「あまぁ…」って言いながら病室を後にした


…諦めるな、か。

窓の外をそっと眺める
少し伸びた髪がふわりと揺れた

…結局、お見舞いに一度も来てくれなかったな

久々の休暇でふと思う…

私が歩いてきた道をふりかえってみたら、後ろには何も無いってことに

敷かれたレールを歩いてきて、気がついたらそこにはなんにもなかった

ここまで…来たのにな

ただ、認めて欲しかっただけなのにな

私の歩いてきた道は、振り返っても砂嵐が吹いている荒野に近いのかもしれない


…どうしたらいいのか、今の私には何もわからなかった

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