1カラットの雫【江口拓也】

第30話 ページ30

「笑えたじゃん」

『え』

「笑えてたよー」

もぐもぐと俺は美味しいうな重を食べながらそう伝えると、少し照れくさそうにセットの味噌汁を飲む彼女


「ま、まだまだだね」

目が死んでるって言ったら、江口さんも大概死んでますよ、なんて言うもんだから、態とらしくお茶を啜った

「割と失礼だよね、東雲さんって」

ズバズバ言うというか、なんと言うか

『そっくりそのままお返ししますよ』

まさかのブーメランだった

まぁ、俺も目が死んでるっていったから
…うん、まぁ

「でも、親子丼初めてかー。なんでまた」

『…うーん』

彼女は少し考えながら、親子丼をみつめた

『親子丼って』

「うん」

『親と子、な訳じゃないですか』

「まーね」

『名前はそうなくせに、結局親を子が包んでいるでしょう？』

「んーあーそうだね。確かに」

『…だから、なんだかそれがちょっと』


私を見てるみたいで、なんか食べる気にならなくて

って彼女は言った

その言葉を聞いて、彼女が前に話したことが頭を過る

…まぁ、人の家のことはよく分からないけど。

「でもさ、じゃあなんで今食べようと思ったの？」

『あーそれは…』

『逃げたくなくて』

そう俺に話す彼女は真っ直ぐこちらを見つめた

だから俺も少しだけ食べる手を止めて彼女を見つめ返す

人の目をあまり見ない俺が、しっかりと彼女の目を見た

まるで宝石のようにきらきら輝いていて
本当に彼女の目は綺麗で真っ直ぐで─────


『あと…』

「ん？」

『江口さんとなら食べたいなって』


「え」

「俺と？」

思わず箸で自分を指す

『ええ、江口さんと』

一人で食べる食事より、美味しいから！

って彼女は微笑むと再び親子丼を食べ始めた

…あっー…

まって…

今のは流石に…

…俺が困る──────


ザワザワとし始める心にそっと蓋をしながら、
俺は甘苦いタレのうな重を頬張った

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しっかり完食して、お茶を飲んでいると、彼女が昔話の続きを話し始めた


『私ね？声が出なくなった時』

「ん？あ、うん」

『しばらく声が出なくて。入院してたんですけど…。初めて声が出た時、なんて言ったと思います？』

「えー？うーん、分かんない」

『ふふ、でしょうね。…私ね？』


『ざまぁみろ、って言ったんです』

「え？」

『初めて声が出た時、私』

『ざまぁみろ、って』

笑っちゃいますよね、って彼女は湯のみのお茶を静かに見つめた

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