1カラットの雫【江口拓也】

第25話 ページ25

『ゲーム…ですか？』

「そそ、ゲーム」

改めて、椅子にしっかり座り直す

自分でもなんでこんな提案をしたのか今となっては分からないのだが…

「たまに俺がご飯とか誘うからさ」

「その時、俺が東雲さんを100点満点の笑顔させたら俺の勝ち」

だから、たまに付き合ってよ？って言う

『もし出来なかったら…？』

「そん時は…うーん、東雲さんの願い事ひとつ叶えてあげる」

なんでもいーよ

って、伸びきったパスタの最後の一口を頬張りながら彼女に伝えた

『…うーん、それでは江口さんに何の得もないじゃないですか』

…まぁ、それを言われてしまえばそうなんだけど

「まぁーねぇー」

お人好しすぎますよ、って彼女が言う

「じゃあ、こうしよう」

『はい？』

「俺が勝ったら、東雲さんがひとつ願い叶えて」

『えー』

「即答かよ笑」

だって江口さんの願いって難しそうって彼女は言うから「別に高価なのは頼まないよ」

…自分で買うし、それは

って付け加えると少しほっとした顔をする


『でも、江口さん、私が演技の笑顔し続けたら江口さんの負けですよ？』

「…まぁ、でもそれを引き出せば俺の勝ちでしょ？」

『なんでまた』

納得言ってないように食い下がる彼女

「…うーん、強いて言うなら」

『強いて言うなら？』

「もう一度、東雲さんの本当に笑った笑顔見たくなったから」

あー、あと、東雲さんとご飯すれば俺、食事忘れないから って付け加える

「あー、あと、タクシー拾ってくれたお礼も兼ねて。あと、1番のファンになるって言ったし？」

『…本当に変な人』

私の笑顔になんにも得なんてないのに
って彼女は言う

…そうだとは思わなかったから
もう一度、その輝きを見たいと思ったから

それは心に閉まっておいた

「じゃー無期限ってのもあれだから」

そうだなぁ〜
彼女ともいつもいる訳じゃないし

「この作品が終わるまで…とかは？」

所詮俺も、作品が終われば関係性をリセットする リセットされないのは一部だけ 本当に仲のいいひと握り

だから、この作品が終わるまでの期間だけなら

…そう思った。
終わったらどうせまたゼロになるから

『…ふふっ、後悔しても知りませんよ？』
「大丈夫、明日にでも笑うかもよ？」


割と長い作品を今やっている

この作品を撮り終えるまでの
彼女との小さなゲーム

ゲームを始めたきっかけは
ただの興味と出来心で。
そこに少しだけのお礼を兼ねて。

彼女の演技に惚れた俺が提案した
ちっぽけな人生ゲーム

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