1カラットの雫【江口拓也】

第22話 ページ22

『…え？』

「初めてだった。演技を見て震え上がるの」

「だから俺は東雲さんが好き」

びっくりしてまた目をまんまるくする彼女

最初はそんな驚く？謙遜する子だなーなんて思ってたけど…


いや、まって？

「まって！今なんて言った俺！」

す、すき…？

「ちがっ、そうじゃなくて、えーっとつまり」

否定するのもあれだし…えっと…

『大丈夫、そんなに必死にならなくても』

そう彼女は微笑んだ

…あれ？
今の笑顔はなんだかいつもと違う気がした

「んんっ、つ、つまり…」

「東雲さんはみていないって言ってたけど」

「ファンの人は勿論、俺に…あと良平さんだっている！たーくさん君のことをちゃんと見てる人はいるから…だから」

『だから…？』

「そんな悲しそうな顔しなくてもいいよ」

うまく伝わっただろうか
俺は上手く伝えるのは下手くそだから

「それでもまだ心配だって言うなら…怖いって言うなら…」

「羽根がなくて飛べないなら、俺が受け止める」

『…え？』

「溺れてしまうなら、俺がいつだって浮き輪投げるし…あ、俺泳ぐの苦手だからそこはごめんね」

『えっと…』

「くすんだならまた磨けばいい、糸が切れたって俺が結んであげるし…切れたら切れたでいつだって自由じゃん」

「道化師は玉が乗れなくたってたくさんの人を楽しませることができるよ」

だから…つまり

上手く話をまとめられなくて
照れとか色々で少し早口になる


「だから…」

何言ってるんだろう
人の人生に口を出して

ただ、言いたかったんだ俺は

あの見出しを彼女は上手い表現っていった

だけど俺はそうは思わなくて
そんな言葉でまとめて欲しくなくて

…それくらい彼女の演技に惚れてしまったから

「…だから、そんな表情は似合わないよ」

会った時からあった違和感
張り付いた偽物の笑顔
たまに見せるなんとも言えない悲しい顔

そんな顔は彼女にはして欲しくない
新しいスタートをすると言うなら

ちゃんと君のことを見てくれている人はいるんだから

「俺は…東雲羽衣の演技が好き」

『あり…がとう…ございます』

あまりにも一気に言ったから、何回も瞬きして呆気に取られている

「だから…その…」

『えっと…』

「だから…俺が…」

『江口さんが…？』

「俺が…東雲羽衣の…」

『…私の？』

「1番のファンになってみせる！」

『……えっ？』


既に伸びきってしまったパスタ
そして、カランッとアイスコーヒーの氷が音を立て、2人の空間に響いたのだった━━

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