君の彼女まで、あと１センチ。

20cm ページ20

「…なめてんの？」

「ぜーんぜん。」

「きもい離れろ今すぐ降ろせ。」

「そう言われて引き下がる俺じゃない。」

「…。」

「痛い痛い痛い痛い！

耳引っ張んなって！」




あと少し、我慢だ我慢。




がちゃっ、とドアを開けて中に入る。




「うわっ！」




ふー、やっと解放された。




ポケットを漁る。




よし、あったあった。




がちゃり。




「はー、本当にあり得ない。」




視聴覚室の良いところ。




「あれ？」




内側から鍵をかけるには、鍵が必要なこと。




つまり、




「は？開かないんだけど。」




この子には開けられなくて




「あんた…鍵持ってんの？」




俺には開けられること。




「当たり前じゃん。」

「いや、おかしいでしょ。」

「なんで？」

「最悪…。」

「さいこう〜。」

「はぁ、早く誰か開けてよ…。」




うちの学校には、こういう造りの部屋がある。




部屋の外側からは、誰でも開け閉めが出来る。





部屋の内側からは、鍵を使わないといけない。




古い建物にはよくあるらしい。




「あのさ、早く出してもらえる？」

「嫌だ。」

「あ、そう。」

「え。」




そこ引き下がるの？




こちらに背を向け、部屋の隅に行く。




何するつもりかな。




「…っしょ。」




え？




床に腰を下ろし、目を閉じた。




背中と右半身を、ぴったりと壁につける。




これは完全に、




「…。」




寝る体制に入った。




嘘だろ？




このタイミングで寝るかよ普通…。




本当にどうしたら良いの？




とりあえず、静かに近寄る。




目の前に来ても、何の反応も無い。




しゃがみこみ、顔の高さを合わせてみる。




意外と睫毛長い。




あ、鎖骨にほくろある。




てかワイシャツ、ボタン開けすぎじゃない？




鎖骨見えてるよ。




第2まで開いてる。




全く。




ボタンを留めようと手を伸ばしたところで、はっと我に帰った。




…何してんだ俺。




駄目だこりゃ。




「ねぇ。」




肩を揺すってみる。




「寝たふりするなよ〜。」




確証は無いけど。




この短時間で寝付くわけないし。




仕方ねーな。




「…ひぃっ！」

「おはよう。」

「あ、あんた、」




口をぱくぱくさせてるけど、言葉になっていない。




「い、いま、何したの！」

「何って？」

「み、みみ！」

「噛んだよ？」

「あり得ない！」

「耳じゃなきゃ良いの？」

「ちが、」

「じゃあ唇にする？」

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