桜散る夜、また君に逢えたら。 (ページ10)

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九話ページ10

ふと、子供が水木の裾をくいくいと引っ張る。

「ん？なんだ？」

水木が首を傾げると、子供が何かを差し出した。

「･･････え、」

そこには半分にされたコッペパン。

「･･････僕はいい。お前が食えよ。」

「･･････。」

先程まで一切表情を変えなかった子供の顔が、ほんの少しだけ悲しそうに映る。なぜそんな顔をするのだろう。お前にやったんだから、全部食ってしまえばいいのに。水木は差し出されたコッペパンを見つめると、小さくため息をついてそれを受け取った。

「･･････ありがとう。」

「･･････！」

水木が口に放り込むと、子供は翠玉を少し輝かせた。もうすっかり辺りは暗くなって、街灯が路地裏を照らしている。暑い空気の中、子供と大人が小さいコッペパンを分け合って食べている。けれど、ただのコッペパンが、その時だけ特別なように感じた。