六話 ページ7
不恰好な字体で書かれた、たった五文字。
驚いて思わず子供の方を見ると、子供は水木に向かって土下座をした。
「なっ、そんなことしなくていい!僕が勝手にやったんだ!」
そう言うも、子供はふるふると首を横に振って頭を下げ続けた。そんな子供の肩を掴んで、半ば強引に顔を上げさせる。
「お前、もしかして耳が聞こえないのか?」
そう聞くと首を横に振る子供。
そしてまた地面に指をついた。
「“こえ わからない”」
「声、わからない・・・・・・声が出せないのか。」
そう聞くとこくこく頷く子供。それを見ると水木は鞄から帳面と鉛筆を取り出し、子供に差し出した。訳がわからないのか首を傾げる子供に鉛筆を持たせる。
「話したいことあるならこれに書け。指から血が出てるぞ。」
「!」
「強く押し付けすぎだ。ほら。絆創膏。」
絆創膏も取り出し、人差し指の土を落として貼り付ける。不思議そうに指先を見つめると、子供は鉛筆を握って文字を書き始めた。
「(持ち方知らないのか・・・・・・)」
全部の指と手のひらで鉛筆を握りしめる子供に水木はそう思った。そしてゆっくりと時間をかけて見せてきた帳面には、再び不恰好な「“ありがとう”」が書かれていた。
「礼には及ばない。それよりお前、名前は?」
そう聞くと視線が帳面にいった。
「“ない”」
「・・・・・・そうか。」
心なしか表情も暗い子供に、水木も視線を落とした。傷だらけで、ボロボロの身体。小さいながら盗みなどをして生きながらえてきたのかと思うと、水木はそっと左目の傷を撫でた。
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作者名:優咲ユウ | 作成日時:2024年1月28日 21時