十話 ページ33
ゆっくりと、鬼太郎を男に受け渡す。
「・・・・・・ああ、倅を、鬼太郎を。こうして儂の腕で抱き上げられる日が来ようとは。のう、鬼太郎。お前の父さんじゃ。分かるか?」
大きな三白眼からぼろぼろと涙が溢れていった。名前を知っていることや、何故鬼太郎に「お前の父さん」と言っているのかなんてもうどうでもよくなるくらい、男は涙を流す。鬼太郎は不思議そうに男の頬に腕を伸ばしていた。そして、この光景を心のどこかで待ち望んでいたことに水木は気づいた。
慣れない子育ての中、ふと思い出してしまっていた知らない人影。すぐに消えて、またすぐに脳裏に浮かぶ。そして気づけば、涙を流している時もあって。
・・・・・・ああ、そうか。
何故、“俺”は、忘れてしまっていたのだろう。
あんな、忘れられないような体験をしておいて。
かけがえのない友を得ておいて。
忘れてしまいたくなるほど残酷な過去を見ておいて。
愛の大切さを、学んでおいて。
「っ、!?水木・・・・・・?」
目の前の友が、俺の名を呼ぶ。聞き慣れた、けれど待ち焦がれていた声色で。ああ、驚くだろうな。お前に、泣いてる顔なんて初めて見せたのだから。大きく深呼吸して、ぐっと腹に力を入れる。
「・・・・・・おかえり、ゲゲ郎。」
ゲゲ郎の三白眼が、さらに大きくなる。そして一瞬細められると、落とす雫の量を増やした。
「・・・・・・遅い、」
「ははっ、相変わらず泣き虫だなァ?」
「うるさい。それに、お主も泣いておろうが・・・・・・お互い様じゃ。」
「ああ、そうだな。遅くなって悪かったよ。」
「ずっと、見守ってくれてたんだな。」と言えば、ゲゲ郎は満足そうに微笑む。そんな父二人の様子を見て、鬼太郎もまたきゃらきゃらと笑い出した。
「・・・・・・と、なるとだ。」
水木がそう一言呟き、一斉に視線を向ける。視線の先はあの子供。水木の腕の中で静かに状況を見ていた子供。こちらの事情を何も知らない子供だが、翠玉は確かにこの時を捉えていた。
「お前は一体、何者だ。」
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作者名:優咲ユウ | 作成日時:2024年1月28日 21時