六話 ページ29
「すまん、少し鬼太郎を見ていてくれるか？」
水木の言葉に子供はこくんと頷いた。「ありがとう」と言い、水木が部屋から出ていくと、寝ている鬼太郎に目を向ける。
「･･････。」
つん、とほっぺたに触れると鬼太郎は少し身じろぎして人差し指を捕まえた。驚く子供をよそに鬼太郎はすやすやと安心し切った顔で眠る。赤ん坊だというのに意外と掴んでくる力は強い。きゅ、と小さな手のひらで握られている人差し指は、何故だか少し離し難く感じた。
「おお〜！これまた珍しいのぅ！」
ふと、襖の方から高めの声が聞こえる。子供は勢いよく声のした方を振り返った。足音がまるでしない。呼吸音すら子供の耳に届かなかったのだ。鬼太郎を庇うように態勢を変えたが、
「倅が知らぬ者の近くで寝とるとは！」
小さい体で襖の隙間を抜けてきたのは、今までの状況を陰ながら見守っていた目玉だった。驚かせるからと水木に隠れていろと言われていた目玉だったが、目に入れても痛く無い、それはもう可愛い実の息子と戯れているのを見て、我慢できずに出てきてしまったらしい。
「いやはや、水木がいないというのに！成長したのぉ〜！倅よ！」
「･･････。」
人差し指を掴まれたままじっと空虚を見つめる子供をよそに、目玉はきゃっきゃと息子の成長を喜ぶ。鬼太郎に駆け寄ると目玉もまた、ほっぺをつつき出した。
「ん？お主、儂に驚かないのか？」
「･･････。」
「いやぁ、これまた珍しい！儂の姿を目にしたものは逃げだすのだが！嬉しいことよ！」
「･･････。」
目玉が興奮気味に話しても何も言わない子供。それを見て目玉もまた首を傾げた。布団の周りをうろちょろしてみても、にこにこと笑って見せても子供はぴくりとも動かない。それどころか視線すら合わないのだ。
「･･････。」
翠玉はずっと、空虚をとらえている。
「･･････ほぉ、これまた驚いた。」
一つの仮説が目玉にたった。子供の視線は自らより遥かに上でなおかつ真後ろ。そして何より鬼太郎が知らない人の横で安心して眠っている。つまり。
「さては、お主･･････」
目玉が、翠玉と視線を合わせた。
「"視えて"おるな。」
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作者名：優咲ユウ | 作成日時：2024年1月28日 21時
