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五話 ページ28

寝かされていた布団の上に座り、水木に背中を向ける。鬼太郎もいつのまにか眠ってしまい、すやすやと小さく寝息をたてる様子を子供は不思議そうにじっと見つめた。






「・・・・・・。」






沈黙が、ただただ流れる。体に巻かれている包帯の擦れる音だけが二人の耳を掠めていた。そして数秒後、パツン、とハサミの音が部屋に響く。






「よし、これでいい。」






一仕事を終えた水木は小さく息を吐いてそう呟いた。先ほどまで血が滲んでいた傷口は綺麗な包帯でキチンと止血されている。血が止まってくれて良かったと思いながら水木は子供の服をなおしてやった。とりあえず片付いた時、子供が恐る恐る水木の方を振り返る。






「・・・・・・、」

「ん、なんだ?」






唇をまるで魚のようにぱくぱくと動かす子供。『何か』を伝えたいことは理解できたが、肝心の『何を』伝えたいかはいまいち汲み取ることができない。その後も必死に口を動かしたり、身振りを大きくして伝えようと奮闘するが水木は首を傾げるばかりだ。







「!、!!」

「す、すまん。今、何か書き物を用意するから・・・・・・」

「っ〜〜〜〜、!!」






伝わらないことに痺れを切らしたのか、子供は数秒間目を閉じて震えた後、少し強引に水木の腕を掴んで引き寄せた。驚く水木をよそに、子供は手のひらに小さな人差し指を押し付け、ゆっくりとなぞっていく。






「・・・・・・!、“あ”」






一文字なぞり終わるたび、水木の手のひらを人差し指で2回打つ。子供の意図を汲み取った水木は間違いがないよう、なぞられた文字を声に出して答える。






「“り、が”・・・・・・“う”・・・・・・『“ありがとう”』?」






子供は水木の問いかけに小さく頷いた。子供らしからぬ大人びた様子に思わず青眼を丸くする。初めて出会った日もそうだが、この子供はいつだって見かけの割におとなしいのだ。






「・・・・・・お前、随分と義理堅いな。」

「“ぎり なに”」

「律儀ってことだ。」







言葉が難しかったのか、頭を捻って考え込む子供に水木は思わず苦笑する。血に塗れ、翠玉を伏せてしまっていた子供。見かけより大人びてしまっている子供。しかし、今この時、刹那だけでも。あどけない表情を見れたことに、水木は何故だか安堵した。

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作者名:優咲ユウ | 作成日時:2024年1月28日 21時

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