十話 ページ22
「はい!!持ってきたよ!!」
「悪いな、お袋。」
母親が水木に鞄を手渡す。これは兵隊時代、水木が使っていたものの余りを鞄に入れて救急鞄としたものだ。水木は綿紗を取り出すと一番酷く出血している箇所にあてがった。しかし、溢れ出る血は綿紗までをも通り抜け、すぐに駄目にしてしまう。
「(っ、無理か、)」
ドクドクと脈打っているのを直に感じる。水木は少し考えた後、意を決して母親の方を向いた。
「火鉢をくれ。」
「え・・・・・・?そんなもの何に、」
理解が追いつかない母親に、水木は拳を握りしめて答えた。
「傷を焼く。」
水木の言葉に母親は目を見開く。あくまでこれは最終手段だった。麻酔もないため痛みを伴い、傷跡も残る。小さい子供になるべくしてやりたくなかったのは水木も同じだ。しかし、血が溢れ出る傷口を塞ぐのならもうこうするしかない。水木にしても苦渋の選択だった。
「わ、かったわ、」
母親はそう答えると、おぼつかない足取りで火鉢を用意しにいった。その背を見届け、再び子供に視線を戻す。
「・・・・・・ごめんな。」
完全に治してはやれない。絶対に傷が残ってしまう。これから先、痛々しい傷を背負わせてしまうことに情けなくなった。
「出来たわよ。」
「ああ、ありがとう。お袋。」
「・・・・・・本当にやるのかい、?」
「・・・・・・ああ。」
母親に耳を塞いでいてくれと伝え、自室から退出させる。完全に出ていったことを確認すると、水木は温度が上がって赤く染まった鉄棒を手に取った。夏に火鉢を焚いているせいで部屋の温度もぐんと上がる。流れ出て、頬を伝う汗を拭い、深呼吸を一つすると、子供の口に手拭いを咥えさせた。
「・・・・・・くたばるなよ、」
子供にそう声をかけて、水木は手当てをし始めた。
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作者名:優咲ユウ | 作成日時:2024年1月28日 21時